2008年05月17日

私は如何にして犯罪について考えるのを止めて遺族を愛するようになったか

映画『丑三つの村』が「恋愛映画」になってしまったのは主演の古尾谷雅人のせいなのか、監督の田中登の考えなのか、脚本を書いた西岡琢也のたくらみか、プロデューサーの奥山和由が悪いのか、はっきりしないのですが、もしかすると奥山さんならやりかねないような気もします。

「地獄」そのものであるような「孤独」の砂漠でのたうち回るかわりに「恋愛」でねっとりと甘ったるくなってしまった「犬丸継男」には、しかし映画においては原作とはまったく別の「動機」が与えられています。「ダダアキ」という「他所者」が村を荒らしていますが、実は「タダアキ」がそうするのには誰かが誰かに畑を騙しとられた報復という背景があるらしいのです。しかしある夜「継男」は、村の実力者である「赤木勇造」(それはもしかすると畑を騙しとった人かも知れません)を中心とした人々がこの「タダアキ」を自殺を装って殺害してしまうのを目撃するのです。

「継男」は不注意にも、「勇造」(夏木勳)たちがいる前でそのことを警官に訴えようとするのですが、「勇造」たちにキチガイ扱いされ、嘲笑されて追い返されます。しかし「勇造」たちの嘲笑は、笑う者たちが笑われる者を排除するというような通常の嘲笑には留まらず、はっきりと殺意を含んでいたのです。

そこでこのシーンの直後に「継男」は猟銃を買い求め、「犬丸継男の戦場」地図を描いて「戦争」のシミュレーションを開始します。したがって「継男」の叫びは原作にある「なんでおれだけさせてくれんのじゃ」というような、そこらのモテない童貞が言うようなセリフではなく、「殺せるもんなら殺してみやがれ」という、甚だしく乱暴極まるものに置き換わっているのです。

既に臨戦態勢に入っている「継男」は、射撃の訓練をし、いつも銃を持ち歩きます。はては以前より情交のあった「赤木ミヨ子」(五月みどり)の夫「赤木中次」(石橋蓮司)とトラブルを起こして銃口を向けるにいたり、ついには「赤木中次」一家が村を捨てて逃げるという騒ぎに発展します。

ここに至ってついに「勇造」は「継男」に「村の人間や思って今まで何も言わなんだが、好き勝手もええかげんにしとけや」とたしなめますが、「継男」はそれに対して「殺すのやったら早う殺してくれや」と応じます。「勇造」は「近いうちにみんなと相談して、おまえの処遇を決めておばやんに報告に行くさかいな」と言って立ち去ります。これがいわば「宣戦布告」だったのであり、「継男」は直ちに行動に移るでしょう。

このように映画では「継男」が「勇造」たちからの攻撃を予期して防衛に走ったことを強調しています。つまり村を外部から守るためのメカニズムが村の内部に向かって作動を始めた時に、その反作用として村の内部から村自身を滅ぼす動きが生じたというわけです。ちょうど実際の「事件」があった前年には盧溝橋事件から南京大虐殺に至る時期であり、この山村でも「畑を騙しとる」という「対外侵略」の行なわれていたことが示唆されていることから、「勇造」が外国を侵略し国民に銃口を向ける「軍隊」の隠喩として描かれていることは明白でしょう。

そこで「継男」は一種の「レジスタンス」のようなことになるわけですが、随分と立派になったもんです。実際とはだいぶ違うような気もしますが、こうなると「ヒロイン」がいなくてはならない理由もはっきりして来ます。抵抗運動の戦士には「今日は帰れない」とか「さらば恋人よ」とかを歌う相手がいなくてはお話しにならないのです。

もっとも「継男」はそんなハイカラな歌を歌うわけではありませんが、日本の歴史上にもそんな「レジスタンス」があったわけではありません。そこで山奥に繰り広げられる隠喩劇をそのままで一般化しなければならないのです。つまり自覚した組織的な抵抗が存在しないところには犯罪が現れるということになります。もとよりそれはこの映画のように、現実の犯罪を一度小説にして、さらにその原作をかなり裏切る形で作り替えたときに始めて出てくる話しですから、あまりアテには出来ません。このような次元で済ませてしまうのは、犯罪理解としてちょっと浅薄なような気がしますし、それが『天国からのラブレター』のプロデューサーの言ったことだとすれば、なおさら疑わしいって感じ。


posted by 珍風 at 17:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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