2009年08月06日

にわか裁判の即席判決の特製調味料

まあ少なくとも「プロのレベル」には達していたようです。

「レベル高い」「市民感覚反映」=傍聴の法曹関係者ら−裁判員裁判

 全国初の裁判員裁判の終了後、傍聴した法曹関係者や被害者団体代表らは、審理の感想を語った。
 元東京地検特捜部検事の堀田力弁護士は「裁判員のレベルが非常に高く、的確な質問をしていた。プロが見ても大事だと思う点を、しっかりと質問していた」と裁判員を高く評価。「初日は緊張していたようだったが、2日目以降は集中し、リラックスして見えた」と述べた。
 一方で、「裁判員がいい質問をしたということは、検察官や弁護士がその質問をしなかったいうこと。今後はプロがもっとしっかりしなければならない」とした。
 「全国犯罪被害者の会」(あすの会)代表幹事の岡村勲弁護士は懲役15年とした判決を「軽い」と批判。「検察の求刑が低すぎることもあるが、遺族の悔しい思いからすると、市民がもっと被害者の立場を思ってくれていいのでは」と残念がった。
 「被害者と司法を考える会」の片山徒有代表は「裁判員が果たした責任は非常に大きかった。質問には市民感覚が反映されていたし、大成功だ」と絶賛。

2009年8月6日 時事


判決は求刑マイナス1年であり、秋葉康弘裁判長など3名の裁判官だけで審理をしても同じようなことになったに違いない判決です。まずは予定通りの判決であったといって良いでしょう。もっとも岡村さんは被害者とは縁もゆかりもない「市民」が「もっと被害者の立場を思ってくれ」ることを期待していたようなことを言っていますが、それはちがうでしょう。てゆーか殺人事件の場合「被害者」は「被害者」になった途端に死んでしまっているので自分の「立場」を説明することは出来ません。岡村さんが勝手に想定した「被害者の立場」なるのものに「市民」のみなさんはあまり関心がなかったとしても仕方がありません。

まあ、岡村さんは特権的遺族として「被害者の立場」を決定する権利を有するらしいので、そういうことでしたらお気の毒としか言いようがありませんが、「市民」が「被害者」というよりはむしろ岡村さんと同じ立場に立って「死刑」だの「懲役20年」だのと言うのであれば、そもそも「アスの会」などという芳香の漂うシロモノはその存在する意味を失います。

もっとも、岡村さんのような「特権的遺族」ではない普通の「遺族」はそれほど不満でもないようです。

「中身は満足」と遺族=判決の視点評価−被害者弁護士・裁判員裁判

 被害者参加人の弁護士を務めた番敦子弁護士は、遺族が「15年という量刑は不満だが、中身は満足いくものだ」と話したことを明かした。被害者の言動や性格が焦点とされる中、検察とともに「冷静で行こう」と申し合わせ、感情的にならぬよう努めたという。
 遺族の長男は「どこを向いても多くの人の目がある。主張は伝わっているのか」と不慣れな法廷に戸惑い、不安を漏らしたという。主文言い渡し後、番弁護士の横で「よかった、よかった。市民感覚でとらえてくれた」と話したという。

2009年8月6日 時事


新しい制度に対してイキナリ批判的なことを言わないようになっていたのかもしれません。もっともこの「市民感覚」というものは意外と、てゆーか意外でもなんでもないのですが、それはかなりいい加減なもののようです。

初の裁判員裁判、東京地裁の判決要旨

東京都足立区の路上殺人事件で、東京地裁が6日、藤井勝吉被告(72)に言い渡した判決の要旨は次の通り。

 【主文】 被告を懲役15年に処する。
 【犯罪事実】 被告は5月1日午前、文春子さん(当時66歳)宅の玄関前付近で、死亡させると分かりながら、強い攻撃意思を持って文さんの左胸を2回、背中を1回、サバイバルナイフで突き刺した。文さんは出血性ショックで死亡した。
 【事実認定の補足説明】
1 近隣住民3人の公判証言は信用性が高く、以下の事実を認定出来る。
 被告宅の斜め前に住む被害者宅前には、植木やバイクが通りにはみ出していた。被告は被害者と言い争いになると手を出すことになり、刑務所に行かなければならないと考え、顔を合わさないよう我慢していた。
 被告は犯行前日に競馬で負けて酒を飲み、当日朝も飲んだ。被害者が植木の手入れをしており、競馬に出かけられずいらだった。被告はペットボトルが倒れていたことに文句を言い、被害者は言い返した。被告はサバイバルナイフを持ち出し、「ぶっ殺す」と言った。ナイフを突き出すと、手が被害者の体に触れるほど深く胸に突き刺さった。
2 被告は「脅すためにナイフを見せると、被害者が『やるならやってみろ』と言い、あごを押し上げられた」と供述する。しかし、そのような言動をとるとは考えがたく、信用できない。
3 動機 被告は被害者に一方的に憤まんの念を抱いていた。飲酒で抑制力が低下し、被害者に文句を言ったのに言い返されて怒りを爆発させたと認められる。
4 殺意 〈1〉ナイフを被害者の上半身に3回深く突き刺し、うち1回は無防備な背中を刺している〈2〉逃げる被害者の後を追って悪態をついている――などから、被害者を死亡させると分かりつつ、強い攻撃意思を持って殺害したと認められる。
 【量刑の理由】
 被害者は、2人の息子が小中学生の時に夫に先立たれ、苦労して育て上げた。息子に慕われ、母親や兄弟から頼られ、人生の結実期を歩んでいた。突如この世を去ることになった無念さは計り知れない。遺族らの悲しみは深く、厳しい処罰を望んでいる。
 被告は、ナイフで胸や背中を3回も手加減することなく突き刺して被害者を殺害し、死なせる危険性の高い行為を繰り返した。被害者が殺人を誘発する言動をとったとは認められず、動機は身勝手で極めて短絡的である。近隣住民に与えた不安や恐怖も軽視できない。被告は暴力的な行動をしてはいけないという意識が低く、刑事責任は極めて重い。
 被告は犯行後に救急車を呼ばず、預金を下ろし、酒と競馬新聞を買って競馬場に行った。被害者の安否を気遣わない自己中心的な行動だ。他方、警察に出頭しようとし、逮捕後は犯行を認めている。公判で遺族に心から謝罪する言動が見られず、反省しているのか疑いもあるが、「後悔している」と述べるなど酌むべき事情もある。以上の諸事情を考慮し、主文の刑に処するのが相当と判断した。

2009年8月6日 読売新聞


ここで「事実認定の補足説明」における「2」の、いわゆる「犯行を誘発した被害者の言動」について、判決では弁護側の主張を一切認めていないわけですが、その理由は単に「そのような言動をとるとは考えがたく、信用できない」というもののようです。なぜ「そのような言動をとるとは考えがたい」としたのかというと、それは被害者が「年配の女性」であることと、被害者の長男の証言によるものなんだそうです。

もっとも「被害者の日ごろの言動」に関する長男の証言については、その矛盾について裁判員自身からも質問が出たところです。長男は裁判への参加について「母の名誉を守る」のが目的であるとしており、事実よりも仮に被害者の「落ち度」というものがあったとすればそれを否定するために証言したものであることが明らかなのですが。

むしろ被告人は口では被害者に負けると感じていたのであり、このため被告人は被害者に「手を出すことに」なる虞れを感じていたことが事実として認定されています。被告人においてその危惧は当日被害者が植木の手入れをするために戸外に出ていたことをもって外出を思いどとまることを余儀なくされるほどのものでした。

このことは今までに被害者が被告人に対し相当にコテンパンに言い負かして来たこと、とりわけ相手が「手を出す」危険性のある程度にまで言い負かして来たことを想定させるでしょう。つまり侮蔑的、もしくは侮蔑の目的を持った挑発的な言動が存在した可能性を示唆します。「侮蔑の目的を持った挑発的な言動」とは、相手を挑発しつつ、相手が挑発に「乗れない」ことを見越して挑発に乗らないことを嘲笑する、というようなことを指しますが、そのようなことがあった可能性は判決の事実認定からも見て取ることが出来るでしょう。

したがって犯行当時において被告人が「脅すためにナイフを見せると、被害者が『やるならやってみろ』と言い、あごを押し上げられた」とする供述につては、そのようなことがあった可能性が事実認定から導かれますので、「そのような言動をとるとは考えがたく、信用できない」とする判決には理由がありません。

ここのところは、この点にこだわった裁判員とあくまで既定の方針で判決を出そうとする「プロ」の裁判官とが妙なる不協和音を奏でたものだったかもしれません。この「考えがたく」は、先行する「1」における事実認定と矛盾し、いかにもとってつけたような印象を与えます。もしかすると秋葉さんは裁判員制度について何か考えるところがあって、わざとこんな「変」な痕跡を残したのではないかとさえ疑われるところです。

もっとも、判決では正確には「にわかには信じがたい」と書いているようです。つまり急には信じられないといっているわけで、急でなければ信じたかも知れないのです。つまり弁護側が時間をかけて証言を集めるなどすることによって「日ごろの言動」についてより説得力のある弁論を展開することが出来るならば、あるいは別様の判決が出ていたかもしれません。その可能性を判決文自体が示唆しているという、まことに奇妙な判決になったのでした。


posted by 珍風 at 23:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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