2009年11月23日

嘆じるんです

それにしてもご婦人てぇものは、いいもんでございますな。

保護観察中の元被告の所在不明問題、裁判員裁判ならではの“温情判決”踏みにじられる/横浜

 横浜地裁での裁判員裁判で保護観察付き執行猶予判決を受けた元被告男性(21)の行方が分からなくなっている問題が、関係者に波紋を広げている。裁判員裁判ならではの“温情判決”が踏みにじられた形。裁判員経験者からは「裏切られた気分」と失意の声が漏れ、法曹関係者は「裁判員は保護観察の実態を分かっているのだろうか」と、「市民による司法」の過剰な更生への期待を憂慮した。
 「新聞で知り、自分が担当した被告のことかと思ってどきっとした」
 元被告の公判と同様に強盗致傷罪で保護観察付き執行猶予判決を言い渡した、同地裁小田原支部の公判で裁判員を務めた男性会社員(41)は、元被告が所在不明になったという報道に驚いたという。
 会社員は「正直、腹立たしい。なぜ逃げるのか理解できない」と声を荒らげ、「本人の更生に適していると判断したのだが…」と、自らがかかわった判決についても不安そうに振り返った。
 同じく同支部で裁判員を務めた女性会社員(34)は「被告本人の責任なので、(元被告の公判の)横浜の裁判員には『判決が間違っていた』とは思わないでほしい」と気遣った。
 保護観察付きの執行猶予刑は、細かな統計は出ていないものの、今年8月に始まった裁判員裁判で急増している。少なくとも、全国の地裁で執行猶予判決を受けた14被告のうち11人に保護観察が付けられており、裁判員が更生の可能性を重く見て付けるケースが相次いでいるためとみられる。
 今回の元被告への判決は、執行猶予中に別の罪で起訴されたにもかかわらず、また執行猶予が付いた異例のケース。県内のある法曹関係者は「(裁判員は)最初から更生ありきで考えていたのではないか」と、首をかしげる。
 法務省によると、保護観察付きの執行猶予刑を受けた対象者約1万3千人(2008年末現在)のうち、383人(同)が所在不明となっている。法曹関係者は「保護観察では、決められた月2回の面接すら守られないケースも多い。裁判員は本当に実態を分かっているのか」と、不安も口にした。
 元被告の身元引受人の男性によると、元被告は判決後、一度も住居として届け出た家に戻っていないという。男性は「毎日会っていた私の目から見たら、公判でも反省しているようには、とても見えなかった」と指摘。「私の所に電話はかけてきた」と明かした上で「本当にみんなに同情してもらって、執行猶予まで付けてもらって、皆さんには…」と言葉を詰まらせた。
 以前、保護観察中の男性を雇用したが4カ月後に行方不明になってしまった経験を持つ会社社長は、「温情で雇ったが、保護観察というのは、結局は本人任せの制度。国はもう少ししっかりした社会復帰支援策を考えるべきだ」と注文を付けた。

2009年11月22日 神奈川新聞


ここでも女性裁判員経験者のお優しい心遣いに溢れた言葉が心をなごませるわけですが、裁判員は全く偶然にあるただひとつの事件と特殊な関係を持つことになりますので、まあ5年もすれば忘れちゃうかも知れませんが、「責任」とかじゃなくて関心が持続するのは自然なことです。それにもちろん、「判決が間違っていた」などと思う必要は一切ありません。判決とは要するに可能な選択肢の中から選ぶだけの話しです。その選択肢の中に「正しい」ものがない場合もあるでしょう。出来ることは複数の「間違い」の中から「最適」なものを選択することだけなのです。

むしろ「県内のある法曹関係者」の言葉が参考になります。彼は「最初から更生ありきで考えていたのではないか」と「首をかしげる」んだそうです。さすがに「法曹関係者」の言うことには重みがあります。素人考えだと判決は被告人の処遇の決定ですから、その目標には「更生」が置かれているものだと思いがちですが、それは間違っているようです。「法曹関係者」は必ずしも「更生」について考えているわけではありません。ほとんど考えていないと言っても良いでしょう。

それも当然のことでして、法は「更生」を知りません。まあちょっとこれは言い過ぎですが、「死刑」を抱えた刑罰体系が「更生」を目標としていないことは明らかで、「死刑」を「極」あるいは無限大として各犯罪の価値評価の尺度として刑期や金額が定められているようです。で、その刑罰をどのように意味付けるかという点に対しては比較的自由な議論に任せているようですから、その間せいぜい酷い目に遭わせるのも良し、「更生」に役立てるのも良しです。その点について法はニュートラルです。刑罰はそれ自体として目的を持っていません。

したがって裁判員が仮に「更生」を目標にして判断しようとしているのであれば、これが「法曹関係者」にとって極めて奇異に映るのは当然のことです。それはいわば法の「目的外使用」なのであって、素人の裁判員どもが裁判を「濫用」しているように思われるに違いありません。実際のところ「法曹関係者」の視点から言えば、判決は被告人を更生プロセスに送り込むことではありません。そんなプロセスは存在しないからです。

もっとも法務省によると、保護観察はないよりもあったほうがマシなんだそうです。まあちょっとっこれはしかしなんというか微妙なんですが。21年の『犯罪白書』によれば、窃盗による初犯で執行猶予判決を受けた者のうち保護観察がついた人は約9%です。窃盗で執行猶予となったもののうち同罪以外でのを含めた再犯率について、再犯率が高いとされる属性において比較すると

「単身(住居不定・ホームレス)」(258人)中
 「保護観察あり」(20人) 再犯率25.0%
 「保護観察なし」(238人) 再犯率36.1%、
「無職」(401人)中
 「保護観察あり」(38人) 再犯率23.7%
 「保護観察なし」(363人) 再犯率35.5%
「監督誓約なし」(335人)中
 「保護観察あり」(34人) 再犯率32.4%
 「保護観察なし」(301人) 再犯率41.2%

ということで、保護観察を付したほうが再犯率が低いようであります。もっとも、全体では

保護観察あり(63人) 
 窃盗再犯19.0%、その他再犯12.7%(合計31.7%)
 再犯なし 68.3%
保護観察なし(628人)
 窃盗再犯23.9%、その他再犯5.6%(合計29.5%)         
 再犯なし 70.5%

なのであって、たいして違わないような気がしないでもありません。一方、覚せい剤取締法違反で同じく初犯で執行猶予のうち保護観察付きは約7%でした。これについては実数が36人であり、細かい分析は出来なかったそうですので、全体の数字だけが示されていますが

保護観察あり(36人) 
 覚醒剤再犯27.8%、その他再犯4.8%(合計36.1%)
 再犯なし 63.9%
保護観察なし(483人)
 覚醒剤再犯24.4%、その他再犯4.8%(合計29.2%)         
 再犯なし 70.8%

なんだそうですから、こちらも大して変わらない、強いて言えばどちらも保護観察ありの方が再犯率が高いことになっています。もっとも、保護観察を付けるというのが、なんだか再犯をしそうに見える人が対象なのですから、もしかしたら保護観察をつけることによって、アブナそうな人もそうでない人と同じくらいになった、と見ることも出来ます。少なくとも「住居不定やホームレスを含む単身者」、「無職」、「監督誓約なし」などの属性を持つ人については、10ポイント近くの差が出ているようですから、その限りで一定の成果があったということは出来るのかも知れません。しかしいずれにしても、保護観察があろうとなかろうと7割くらいの人は別犯を含めて再犯をしないのです。そして所在不明になる保護観察対象者は3%弱でしかありません。ということは、所在不明者の全てが再犯に至ったとしても、再犯者の10分の1でしかないのです。

「法曹関係者」の言う「保護観察の実態」というものがこういうものであるとすれば、上記に挙げられた属性を持たない人については、保護観察をつけることはあまり意味を持たない可能性があります。何でもかんでも保護観察を付けることは無意味であるばかりでなく、保護司の負担をいたずらに増やしてその効果を減殺することにもなりかねません。なるほど、そういうことを裁判員が理解しているかというと、これははなはだ疑問であります。法曹であればこれらの点に関する認識は職業的な義務に属しますが、裁判員にはこれらの知識は要求されていません。裁判員は身体と感情だけ持ってくればよいことになっています。

もっとも、この記事で扱われている窃盗で執行猶予歴がありビニール傘に火をつけた人に対する執行猶予判決が、もっぱら「裁判員裁判ならではの“温情判決”」であるとするのは神奈川新聞記者、というよりも見出しをつけた奴の偏見であると思われます。今回は窃盗ではなくて別の犯罪ですし、今度は保護観察を付けることにしたのですから、仮に「更生」を考えないとしてもそれなりに段階を踏んだ手続的に瑕疵のないものです。そしてリードを除いて実際に記事の中で「温情」という言葉が使われているのは「以前、保護観察中の男性を雇用したが4カ月後に行方不明になってしまった経験を持つ会社社長」が、「温情で雇った」と語っているところだけです。

執行猶予者にとっては裁判員ではなくて、この社長のような人の「温情」がなければならないようです。そしていかに裁判員に処罰感情が強くて冷酷で残忍でも、傘に火をつけたくらいでは死刑にも無期にもならないのですから、実刑を終えて出てくるときにはやっぱりこのような「温情」が必要になります。そういう人たちの就労は困難を極め、現状ではこのような「温情」だけが頼りなのですが、最近では別段犯罪を犯していない人でも就労が困難なのですから、万引など軽微な窃盗事犯の増加に「温情」が追いつきません。そして「温情」などというものは「偏見」の一種に他ならず、そしてそれはいつでもシステムの不備をカバーするには足りない、あくまで例外的なものに留まります。それは「偏見」の例外的なあり方なのです。

しかし現状は、経済状況では生活の逼迫から窃盗などに走る人が増加し、多くの人が前科を持つことによって、結果として執行猶予者に対する偏見が軽減されて、執行猶予者の就労についても不当な差別を受けることがなくなる可能性を持っています。偏見は啓蒙によって変わるものではありません。誰でも前科の1つや2つ持っているようにならなければ変わらんでしょう。


posted by 珍風 at 08:09| Comment(7) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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