2009年12月12日

お子様クラッシュ

スタントマン熱演で「恐怖体感」交通安全教室

 スタントマンが交通事故を再現するスリリングな交通安全教室が、全国に広がっている。
 恐ろしさを間近で見せる「スケアード・ストレート(恐怖の直視)」と呼ばれる米国式の教育法を応用した手法で、事故防止への心理的効果が期待されている。
 10月に富山市内の中学校で開かれた交通安全教室。自転車のスタントマンが一時停止をせずに交差点へ進入、時速50キロの乗用車にはねられて地面にたたきつけられた。その瞬間、生徒たちは悲鳴を上げた。自転車通学する3年生の男子は「すごい迫力で、事故の怖さを実感した」。初めて導入した富山県警は「『絶対に交通ルールを守る』と言う子供が多かった」と手応えを感じている。
 スタントマンの安全教室は、1992年度に警視庁板橋署が初めて企画した。道交法改正で自転車の通行ルールが厳格化された2007年度、警察庁が安全教室のモデルに採用。さらに今年度はJA共済連が社会貢献活動として支援を始めたため、各地に広まった。
 スタントマンを派遣しているのは主に「スーパー・ドライバーズ」(東京都狛江市)と「シャドウ・スタントプロダクション」(同町田市)。今年は10月末までに東京、福島、新潟など20都道県で両社合わせて167回が開催された。スーパー社によると、安全教室への派遣は映画やドラマの仕事よりも多くなり、専門チームで対応している。雨宮正信代表は「やり直しができず、骨折などのけがを負うこともある」と話す。警察庁交通企画課は「事故の恐ろしさを実感してもらう方法としては有効」としている。

 ◆スケアード・ストレート◆
 米国で行われている代表的な例は、非行少年が受刑者らから犯罪の内容を聞き、刑務所生活などを見る教育。日本では、交通事故の被害者や加害者の講演などにも応用されている。

2009年12月7日  読売新聞


これと全く同じことが『クラッシュ』というSF作品の中で行なわれていたのを思い出すわけですが、この小説の登場人物は有名人の交通事故死を再現しようとします。彼等自身にとってそれは性的な意味を持つものでした。

おそらく自動車事故に対するわけの分からない衝動、いやそれに限らずありとあらゆる様々な欲望を自我に統合するための「持って行き場」として性的欲望が機能することが出来るでしょう。色々とヘンなことをするにしても、結局は要するにオマンコであるということであれば、読者としては安心することが出来るわけです。

しかしながら警察では、そんな「成人向け」の要素抜きで自動車事故の礼拝堂を打ち立てることが出来ました。「交通事故防止」の大義名分がセックスの代わりになります。そしてそれを正当化しうるのが「スケアード・ストレート」という更生メソッドなのでした。

「scare」は「脅かす」ことで、カラスを脅かすのが「スケアクロウ」ですが、「scared」が「恐怖」という名詞で「straight」が「直視する」という動詞で、しかも目的語が先に置かれているのは警察独特の英語であるようです。まあしかし、これは難しい英語です。一般的には「怖がらせて矯正する」、あるいは「ビビらせて真人間にする」というように解釈されています。「straight」を「規範を守る人」という意味に取るわけです。これは比較的新しい用法かも知れませんが、「直視」と解釈するよりはストレートです。

これは記事の中で解説されている通り、本来非行少年の更生プログラムとして行なわれたものです。具体的には悪ガキ共をホンモノのワルがうじゃうじゃいる重警備刑務所に連れて行って、囚人の中に放り出す、といっても単に放り出すと瞬く間にケツの穴を拡張されてしまいますから、そういうことのないようにしますが、要するに受刑者はなるべく脅かすように餓鬼共を大声で怒鳴り上げ、説教します。そして刑務所がどんなに恐ろしいところで、犯罪者の末路がどんなにミジメなものであるかを言って聞かせてビビらせます。そして餓鬼のうちに更生していればこんなことにはならなかった、とか言ってみせるわけ。

これがテレビで紹介されているうちは良かったのですが、詳細な調査の結果によるとこのプログラムは効果があったようです。もっともそれは再犯を促進する、という効果だったんですが。仮にこのプログラムが再犯を防止するつもりで実施されたのであれば、これは全くの失敗だったようです。

したがってこの失敗作を取り入れてしまうのは考えものなのですが、この「交通安全教室」の場合、対象は非行少年ではなくて何も悪いことをしていない餓鬼である点、目標が一度犯罪を犯したものが再び犯すことを防止することではなくて犯罪に比較すると当事者の意志的行為である割合が極端に低い交通事故の防止である点などにおいて、実は元の「スケアード・ストレート」とは似て非なるものであると言えるでしょう。要するに単なる思いつきであり、事故の実演が対象の興味を惹くから良いんじゃないか、という程度のものなのではないか。

しかしながら本家「スケアード・ストレート」における効果のなさ、というよりはむしろ負の効果については、それをもたらすメカニズムについて様々な仮説が考えられます。例えば他に模倣するモデルがいない場合は仕方なく「反面教師」を模倣せざるを得なくなるとか。もしかすると「スケアード・ストレート」は、ショックを与えることによって「反面教師」を強化しているのかも知れません。強い情動を伴って提示される「犯罪者」が、無意識のうちに餓鬼の行動を誘導してしまうことが考えられます。

交通事故においては、人は危険な状況にイキナリで食わすことになりますが、このような場合に同様のメカニズムが働くでしょう。なにしろイキナリのことですから、あまり落ち着いて考えていられる状況ではありませんので、強く刷り込まれた「事故の瞬間」に引きずり込まれてしまうかも知れません。もちろんそれは有効な回避行動をとることを抑制するでしょう。

バラードが提示したように自動車事故がそれ自体魅惑的である可能性は存在します。人はまるで魅入られたように電柱にぶつかっていったりするものです。その瞬間をあえて見せることによって事故の誘因力は決定的に強化される虞れがあるのであって、そう考えるとなるべくだったらこんな「交通安全教室」は止めておいた方が良いようなものです。

もっとも、これは既に17年くらいにわたって行なわれているということですから、その間にその効果については検証していなければなりません。通常は同じ学校で「クラッシュ教室」に参加するクラスと参加しないクラスに分けて、それぞれの餓鬼共を追跡して交通事故に巻き込まれる奴の割合に差があるのかどうか調べたりするんだと思うんですが、やってるんですかね。警察庁交通企画課の様子だと、何もしてない感じなんですが。効果の測定もせずにただ単にスタントマンの骨を折り続けているのでしたら無駄骨とはこのことですが、恐ろしいことに検証もしないまま定着してしまって、「専門チーム」まで組んじゃってる状況で引っ込みがつかないというのもよくある話しです。まあ面白いショーだとは思いますけど。事故が増えてもお巡りさんは困らないわけだし。


posted by 珍風 at 16:34| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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