2008年06月26日

べっとりべとべと遺族会

犯罪被害者の会、本社あて抗議文 「素粒子」めぐり

 死刑執行にからんで鳩山法相を「死に神」と表現した朝日新聞の18日夕刊1面のコラム「素粒子」をめぐり、重大事件の被害者や遺族でつくる「全国犯罪被害者の会」(あすの会)は25日、都内で記者会見し、「被害者遺族も『死に神』ということになり、我々に対する侮辱でもある」と抗議した。
 代表幹事の岡村勲弁護士は会見で、「私たち犯罪被害者・遺族は、死刑囚の死刑執行が一日も早いことを願っている。(コラムは)鳩山法相に対する批判であるが、そのまま犯罪被害者遺族にもあてられたものだ」と述べ、25日付で朝日新聞社に抗議文と質問事項を送ったことも明らかにした。
 〈朝日新聞社広報部の話〉 全国犯罪被害者の会からいただいた「抗議および質問」を真摯(しんし)に受け止め、速やかにお答えいたします。

2008年6月25日 asahi.com


「全国犯罪被害者の会」というのはたしか、どういう基準に基づくのかよくわからないながらも「選ばれた」人たちで構成されているようです。「犯罪被害者」とか「遺族」なら誰でも入れるというものではなく、なんでも相応しくない人は除名させられるそうで、そういうことも会員のレベルを維持し、意思の統一を図ろうとする上では当然のことなのでしょう。いわばこの会は「犯罪被害者」界のエリートなのです。

かどうかは定かではありませんが、この会の「規約」によればこの会の「会員」は

本会の会員は、次のとおりとする。
(1) 正会員 被害者
(2) 特別会員 当会設立の趣旨、目的に賛同し、その実現に熱意を有する者で、幹事会が特に入会を承認した者


なんだそうです。これだけを読むと「正会員」は「被害者」ですから、殺人の場合は死んでいないと会員になれない、まさに文字通りの「幽霊会員」によって構成されているのかと思ってしまうかも知れませんが、この会のいう「被害者」というのは独特の意味を持っています。同規約によれば

犯罪被害者(以下被害者という)とは、次の者をいう。
(1) 犯罪により生命を失った者の遺族
(2) 犯罪により身体に被害を受けた者
(3) 上記1.2の近親者


俗にいう「被害者」に該当するのは(2)だけです。困ったことに本来の「被害者」は2番目でしかありません。「犯罪被害者の会」は第一義的には「遺族の会」だったのです。しかしこのような実態を名称に反映すると「日本遺族会」と混同されるおそれが生じます。もっとも混同しては困るというほどにかけ離れているというわけでもないようです。

しかしながらここで(1)「犯罪により生命を失った者の遺族」は、(1)における「生命を失った者」を(2)の「身体に被害を受けた者」に含めるならば、(3)における「上記2の近親者」に含まれるのではないかと考えられますから、この意味では(1)は余計です。どう考えても「遺族」は「被害者」の「近親者」の一部でしょう。このような混乱は本来「殺人被害者遺族会」であるものを拡張したことによると思われますが、いずれにしても会における「遺族」の地位の高さは「殺されたわけでもない」(2)の「被害者」とは一線を画すものであることが伺われます。

とはいえこの「規約」では「遺族の範囲」が特定されていないところは問題です。これは会員の資格要件であり、会の本質そのものに関わる問題であることから、重大な瑕疵であるといわざるを得ません。この問題について例えば国の法律ではどのように定義されているかといいますと、

国家公務員災害補償法第16条
遺族補償年金を受けることができる遺族は、職員の配偶者(婚姻の届出をしていないが、職員の死亡の当時事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。以下同じ。)、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹であつて、職員の死亡の当時その収入によつて生計を維持していたものとする。


ただしこれは年金を受けることができるための条件ですから、「妻」以外の人については概ね、60歳以上であるか高等学校卒業前であるか障害者であることを条件とします。

国家公務員共済組合法第2条第3項
遺族 組合員又は組合員であつた者の配偶者、子、父母、孫及び祖父母で、組合員又は組合員であつた者の死亡の当時(失踪の宣告を受けた組合員であつた者にあつては、行方不明となつた当時。第三項において同じ。)その者によつて生計を維持していたものをいう。


また民間では、死亡した労働者の退職金を誰に払うかということに関係して「遺族の範囲」が問題になります。これについてもちゃんときまりがあって、

労働基準法施行規則第42条
遺族補償を受けるべき者は、労働者の配偶者(婚姻の届出をしなくとも事実上婚姻と同様の関係にある者を含む。以下同じ。)とする。
2 配偶者がない場合には、遺族補償を受けるべき者は、労働者の子、父母、孫及び祖父母で、労働者の死亡当時その収入によって生計を維持していた者又は労働者の死亡当時これと生計を一にしていた者とし、その順位は、前段に掲げる順序による。この場合において、父母については、養父母を先にし実父母を後にする。


ここでは「遺族」はまず第一に「配偶者」である、という極限的な定義が目を引きますが、先述の国家公務員に関する規定についても、そこに述べられている順番が受給する権利を行使できる順位になっていますから、「配偶者」「子」「父母」「孫」「祖父母」という順位は不動であり、これが「生計を一にしている」場合に法制度上「遺族」概念の中核をなします。その次の順番に「同胞」(兄弟姉妹)があったりなかったりという違いがあります。

つまり「遺族」というのは、「犯罪」なり何なりの原因によってある人が得ていた収入が途絶えた場合に、それによって生活していた人はどうやって暮らしていけば良いのかということを考えないといけない、という文脈で出てくる言葉なのであり、刑法犯の「被害者」および「遺族」にとってもそれは切実な問題であることは論をまちません。例えば親類にも見放された「みなしご」の兄妹がいて、妹は小学生であり、兄が魚市場で働いて生計を維持しているところ、この兄が地回りのヤクザによって刺し殺されたという、いつの時代のマンガだ、というツッコミ必至の想定において、兄を雇用していた会社が「退職金」を支給しない、あるいは「妹」が「退職金」を受け取れないようなことがあると、彼女はそれこそ「児童ポルノ」の「犠牲者」になるのでなければ「不良少女」にでもなって「犯罪」によって「生計」を立てるか、さもなければ死ぬしかないわけで、そういうことがあってはならない、とゆうようなことです。

この意味では自らが家族の生計を維持し「妻」と「子」を殺害されたような例においては「遺族」としての権利確立の緊急度において劣るものと考えられます。しかしどういうわけか「全国犯罪被害者の会」の中核メンバーはそのような人たちなのですが。ちなみにこの会の目的は

本会は、以下の事項を目的とする。
(1) 被害者の権利の確立
(2) 被害の回復制度の確立
(3) 被害者および近親者に対する支援
(4) 被害者問題についての啓発活動
(5) その他前各号に関連する事項


なのですが、別に喰うに困っていない会の中心メンバーの「生計」の状態の然らしむるところ、「死刑囚の死刑執行が一日も早いことを願っている」というようなことがやはり活動の中心になるようです。「遺族の範囲」すら明確ではない「被害者の会」は、実際には「家族を殺した奴の死を願う会」だったのであり、そういうことを「願う」ということですと、これは神仏に祈願する宗教的な団体と変わるところがありません。いや、それは別にかまわないのです。「全国犯罪被害者の会」が「全国殺人犯呪殺会」になったところで困る人なんて誰もいないでしょう。あたかも「日本遺族会」と「靖国神社崇敬奉賛会」の仲が良いようなものです。

問題は単なる「呪殺会」、いわば「死神」の信仰者の団体が、自らを「神」の位置に置いてしまったことです。気持ちは解らないわけではありませんが、やはり法務大臣として人の死ぬ期日まで指定出来るのと、ただ単に「願っている」のとでは全然違います。「法相に対する批判」を「そのまま犯罪被害者遺族にもあてられたものだ」ととらえて騒ぐのは、僭越以外の何ものでもありません。傲慢といってもいいでしょう。あんたらに誰がいつ死ぬか決定する権限があるとでもいうのか。そんな権限は誰にもないのです。人はみな死にますが、いつ死ぬかは誰にも解りません。人の死ぬ期日を指定する力を持つのはただ1人法相だけであり、それが法相を「死神」と呼ぶ所以なのです。

神は人間のこのような傲慢を許すことはないでしょう。しかしながら神ならぬ国家はこのような傲慢を許し、受け入れ、利用するかも知れません。もっとも「神」と一体となって働いてきたことを自負する「教会」が、いつの間にか自分が「神」のような気持ちになって傲慢の罪を犯すことは歴史上珍しいことではありません。「神」とは人間が犯すことの出来ない至高性として永遠の空席であるあることを無視し、安易に「国家」などにその座につくことを許してしまうような者は、その膝の上を欲して罪の上塗りをするようです。もとよりこんなことになってしまった「被害者の会」は、もはや「死神」の「司祭」の位置にありますが、そのような位置に着いてしまったこの会は、死刑制度を支持する「民意」から自らを引き離すことによって自らの「利用価値」を喪失し、「死神」の寵愛を失うことになりそうです。


posted by 珍風 at 20:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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