2009年01月26日

検察ろまんちっく

星島被告に死刑求刑 江東女性殺害 弁護側は無期懲役求める

 東京都江東区のマンションで昨年四月、女性会社員=当時(23)=が殺害された事件で、殺人、死体損壊・遺棄などの罪に問われた星島貴徳被告(34)の論告求刑公判が二十六日、東京地裁(平出喜一裁判長)であり、検察側は「被害者の人格、生命、尊厳を踏みにじり、ためらうことなく殺害し遺棄した罪責は誠に重大。生命をもって償わせるしかない」と死刑を求刑した。 
 弁護側は無期懲役を求め、公判は結審。判決は来月十八日に言い渡される。
 論告で検察側は、自由を奪った上で、首を包丁で刺して死亡させた犯行を「残忍で冷酷」と指摘。「人を人とも思わず、自己の性欲を満たすための『道具』にすぎない存在として女性を扱い、邪魔になれば『物』同様に抹消しようと考えた動機は極めて自己中心的で身勝手。酌量の余地は全くない」と断じた。
 「殺害が当初から計画されたものではなかったとしても、被害者を『性奴隷』にしようとした時点で既に殺害は必然だったと考えるべきで、被告に酌むべき事情はない」と述べた。
 さらに「理不尽な理由と残虐な殺し方で被害者を奪われた遺族の怒りは峻烈(しゅんれつ)で、死刑を回避する事情はない」と述べた。
 弁護側は最高裁が一九八三年、四人を殺害した永山則夫元死刑囚に対する判決で示した犯行の動機、殺害された被害者の数−など九項目の基準を挙げ、「当初から殺害を計画した事案ではなく、死刑基準にいう結果の重大性は、被害者の人数で判断されていることを無視すべきではない」と主張。「無期懲役をもって臨み、被害者の冥福を祈らせるべきだ」と訴えた。
 最終意見陳述で星島被告は「死刑でおわびさせていただくしかない」と述べた。
◆被告の起訴事実
 星島被告は昨年四月十八日、わいせつ目的で、同じマンションの二部屋隣の女性会社員(23)宅に侵入して女性を自室に連れ込み、包丁で刺して殺害。遺体を切断し、翌十九日から五月一日にかけて自室トイレやマンションのごみ置き場などに遺棄したとされる。

2009年2月26日 東京新聞


「殺害が当初から計画されたものではなかったとしても、被害者を『性奴隷』にしようとした時点で既に殺害は必然だった」というのはいくら何でも無理矢理です。実際に検察は後の方で、被告人は「警察捜査の開始という事態に対し、急転して、むしろ被害者は自らの犯行を裏付ける証拠となり危険で邪魔な存在と考え」たと言っています。君子は豹変しますが星島さんは「急転」したようです。

この点についての検察の展開は、先ず「人間の存在を消す犯行、それが本件です」としています。ここはトリプル・ミーニングです。「人間の存在を消す」ことに、人を「奴隷」にすること、人を殺すこと、そしていわゆる死体を「透明にする」こと、の3つの意味をかけています。甚だ文学的な表現である、といえるでしょう。検察は叫ぶ詩人です。

第1の意味について検察は「被告人にとって、性奴隷にする女性のもともとの人格は邪魔でした」としています。この点について星島さんの見解がどのようなものであるか詳らかにしませんが、「性奴隷」に「人格」はいらない、というのは検察官の文学的な妄想でしょう。「性奴隷」は「人格」を否定されるどころか、「全人格をあげて」奴隷であることを期待されます。しかしそれだけではありません。奴隷の奴隷たる所以は服従を余儀なくされていることを自覚しながら服従しなければならない惨めさであり、加虐の醍醐味とはまさに奴隷の惨めさを、したがってその抑圧された反抗を、つまりは「人格」を感じるところにあるのです。それはまさに妄想でしかありませんが、検察官がいくら妄想しても追いつかないところです。検察官は「人は奴隷となった時に反抗するものだ」ということがわかりません。

「性奴隷」と「殺害」を「必然」で結ぶ論理はこのような検察官の誤解から発生しています。しかしこれは職能に相応しい「美しい」誤解であるといえるでしょう。そして第2の意味である殺害においても、それは検察が妄想するに相応しい「美しさ」をもって行われたとされています。

「瑠理香さんを見下ろし、『暴れられては刺しにくくなる』と考え、静かに左からそっと近づくと、やにわに右手で口を強く押さえ、包丁をためらうことなく刺し、体重をかけて一気に突き刺したのです。こうして平然と、確実に殺したのです」極めて速やかに、静かに。まさに検察が「奴隷」の死に方として相応しいと考える死に方です。様式美の極致とも言えますが、もちろん実際の殺害がこのように慣れた手つきで流れるように行われたかどうかは不明です。ここまでやるには相応の修練というものが必要であるような気もしますが、意外とぶっつけ本番で上手くいくものなのかもしれません。もっとも、人間不慣れなことをした場合は、けっこうバタバタしてもその間の記憶がなかったりしますから、星島さん本人も自分がそんなに上手くやったんだと思っているのかもしれません。

この点について検察は「自由に動ける人を刺すのとは、比較にならないほど残忍で冷酷な犯行です」としていますが、犯行の様態が全く別様であってもやはり「残忍で冷酷な犯行です」と言いますから、あまりあてになりません。単なる修辞と言うべきでしょう。つづいて星島さんはいわゆる第3の意味における「人間の存在を消す」に取りかかるわけですが、ここでも検察は感興の赴くままに間違いをおかしています。

星島さんは「他に類が見られないほど、細かく刻みました」んだそうです。しかし「5月28日、下水道管を下流にたどると、被害者の最初の遺体として肋骨(ろっこつ)の一部が見つかりました」んだそうです。検察の詩に一点の曇りがあるとすればまさにこの点であって、要するに星島さんは不徹底でした。もちろん検察の「他に類が見られないほど、細かく刻みました」というのは単なるウソです。「他に類」はありますが、他の類の人は骨については注意して処理していたものです。星島さんは骨まで「細かく刻」もうとした点において「他に類が見られな」かったかもしれませんが、検察が言うほどそんなに持ち上げるほど画期的なことをしたわけでもないようです。

検察は「人間」を「人格」「生命」「人体」という3つの意味に分節した上で、あえてそれらをゴッチャにして、「性奴隷」から「透明化」までを一本の線の上にキレイに並べるべく技巧を尽くしました。しかしそれも単なる印象操作にしか過ぎません。詩人に騙されてはいけません。連中は狡猾です。涙声になったり鼻をすすったりする時には要注意です。なにしろ彼は被告人の「火傷を負った身体」に言及する時には、さっきまでの「人間」というイメージを分裂させた様々な「意味」などは全く忘れてしまい、それは単なる「無意味な」ただの火傷でしかなくなってしまうのです。

しかし火傷がただの火傷なら殺害もただの殺害であるかというとそうではないところが不思議です。それは「従前の日常生活では決して表に現さず、法廷でも見せることがなかった被告人の真の人間性」を証しするものとなるのです。ところが被告人は火傷の方も「従前の日常生活では決して表に現さ」なかったことを考えれば、「真の人間性」には「火傷」も含まれるものと考えられます。「火傷」があるくらいで人を殺されてはかないませんが、人を殺したくらいで「真の人間性」を云々されるのもかないません。火傷はその「かなわない」とこをやけに目立たせる傷です。

僕としては詩人ではないので、火傷はただの火傷だし殺人はただの殺人だとしか思えません。生命のない人格などあり得ないし、人格のない生命は御免被りますが、生命のない人体は生ゴミです。火傷に人格を支配されるのもイヤですが、人体のない人格もありえないと思っています。検察のようにあっちこっちと様々な言語表現の規範の間で軽やかに戯れるというのは出来ない相談です。もしかするとアタマがカタいのかも知れませんが、なるほど検察は柔軟です。

「被告人は罪を認めています。しかし自首したわけではありません。口先の言葉とは裏腹に、何の反省もしていないのです。」とは見事としか言いようがありません。被告人に「反省」を求めるような甘ったれた「遺族」は以て瞑すべしでしょう。検察にいわせれば「自首」していない以上「反省」などはあり得ないのです。「自首」したかどうかという、後からは変更不可能な過去の事実に基づいて現在の「反省」が判断されます。死刑を求刑する時には。

「本件では、被害者を姦淫するには至りませんでした。しかし姦淫するに至らなかったのは、被告人が供述するように「できなかっただけ」にすぎず、刑種を選択する上で考慮すべき有意な差とは考えられません。」これはかなり強烈です。もはや「既遂」と「未遂」の間に何の区別もありません。それは単に偶発的なことに過ぎず、意味のある違いではないのです。意図が問題であり、結果は問われません。欲情をいだいて女を見た者は姦淫したのと同じです。死刑を求刑する時には。

今日の検察は軽妙にして柔よく剛を制し剛よく理を制す、とどまるところを知らぬ弁舌はつかみ所が無いという風でしたが、これでも星島さんが「過去に類を見ない、人を人と思わぬ、悪質極まりない犯罪」をやったということになるようです。被告人は「人間の顔をした悪魔」なんだそうです。まあTVとかに出て来る「悪魔」は概ね「人間の顔」をしていますが。しかしそれが「もはや矯正の余地はありません」ということの理由になるようです。死刑を求刑する時には。

なんだかよくわかりませんが、しかしとにかく何が何でも死刑を取るぞ、という闇雲に盲滅法な意気込みだけは伝わってきます。なんたって若い女性のバラバラですから、世間受けしそうな事件なのです。死刑を拡張するにはまたとない機会です。ただ惜しいことには検察はムードで押せ押せとばかりにあまりにも気の抜けたデマカセばかりのいい加減な求刑をしてしまったようです。いつもはこんなんじゃない、と思いますが。よく知りませんけど。


posted by 珍風 at 23:02| Comment(1) | TrackBack(2) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
すごく読みごたえがありました。
ありがとうございました。
Posted by kore at 2009年01月29日 23:29
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