2009年07月05日

パラサイト倫理学の負けを抱いた抱負

まずは何といっても地方分権てゆーか痴呆文献。時はさわやかな5月に遡ります。

高齢者万引きなどへの対策を確認

 増加する万引きの被害を減少させようと、神奈川県警は21日、県万引防止対策協議会を横浜市中区の県警本部で開催した。
 万引きの認知件数は平成11年には6609件だったが、昨年は1万1383件と約2倍に増えている。子供だけではなく、高齢者の万引きも増えているという。また、かごに商品を入れたまま精算せずに店を出る「かごダッシュ」など、手口も大胆になっているという。
 総会では、ガイドラインを活用して、効果的な万引き防止対策をしていくことを確認した。

2009年5月21日 産経


なんですか、「ガイドライン」というものの詳細は不明ですが、ここら辺から事は始まっているようです。この記事では「高齢者の万引きも増えている」ことを特記していますね。「高齢者」が「かごダッシュ」。お達者でなによりです。いや実際、「齢」てのは「脚」から来ますな。でもってその1カ月後。

万引き:「不況理由」21ポイント増の53%−−小売業者、NPO全国調査

 ◇「昨年より被害増」11ポイント増
 百貨店やスーパーなど全国の小売業者に今年3月、万引き被害の実態を聞いたところ、1年前と比べて「増えた」とする回答が全体の4割近くにのぼり、前回調査時(昨年2月)から11・5ポイントも増加した。NPO法人「全国万引犯罪防止機構」(河上和雄理事長)が調査したもので、万引きの原因として「経済不況」を挙げた業者が前回比21・5ポイントの大幅増となり、急激な景気悪化の影響を色濃く反映する結果となった。【千代崎聖史】

 調査は05年度から始まり4回目。店頭に商品を陳列し、消費者が手に取って選べる「セルフ販売方式」を採用する業者924社に調査用紙を送り、324社から回答を得た。
 それによると、万引き被害について「やや増えた」「大変増えた」の合計は38・5%。「やや減った」「大変減った」の合計15・1%を大きく上回った。
 原因(複数回答可)については前回同様、「犯罪意識の欠落」が74・7%で最も多かったものの、経済不況を挙げた社が53・1%にのぼった。
 店側が確保した万引き犯の職業別構成比では、無職が前回とほぼ同じ29%で最多。続いて主婦が4・4ポイント増え20・4%を占めた。高校生は8・1%、小中学生はそれぞれ3・8%、10・2%だった。
 今回から調査項目に加えた通報処理では、「被害を警察に通報後、(調書や被害届などの)書類作成などで警察にいた平均時間」を聞いたところ、「30分〜1時間」が37・6%で最多。ただ、全体の52・3%が1時間以上警察に留めおかれたと回答し、30分以上かかった場合には9割が負担に感じることも判明した。
 警察庁によると、万引きの認知件数は04年の15万8020件を境に減少傾向をみせていたが、昨年増加に転じ、今年も1〜5月の前年同期比で約3600件(6・1%)増えている。

2009年6月29日 毎日新聞


この記事はNPO「全国万引犯罪防止機構」、理事長はあの河上和雄さん、東さんを挑発したヤメ検です。まあ河上さんは東さんが何か言っているのなんてちゃんちゃらおかしい程度にはエリートなんですが、別にエリートが正しくて芸人が間違っているとは限らないわけです。それはともかく河上さんは細かい仕事をちゃんと拾っていまして、遊技産業健全化推進機構代表理事をつとめたり、刑務所の慰問をしている歌手を引っ掛けたりするなかで万引防止などもやっていらっしゃる。そのNPO法人の調査結果についての記事であって、その切り口は「万引きの原因として「経済不況」を挙げた業者が前回比21・5ポイントの大幅増」ということです。これは神奈川で「高齢者の万引きも増えている」とされている事に呼応します。餓鬼の万引が増えたって「経済不況」が原因だとはあまり思いません。しかしこれが7月に入ると、また違ってまいります。

不況のせい?万引き増加傾向 警視庁が対策研究組織(1/2ページ)

 万引きが全国的に増加に転じている。民間団体が小売業者を対象に行った意識調査では、モラルの低下や長引く不況が背景にありそうだ。万引きは、より深刻な犯罪への入り口となる「ゲートウエー犯罪」。警視庁は4日、専門家らによる研究組織の初会合を開き、「万引きさせない」ための方策を探っていく。
 警察庁によると、今年1〜5月の窃盗事件は08年の同じ時期より4.3%減っているのに、万引き被害は6万2887件と、同期比6.1%も増えた。万引き被害は04年の約15万8千件をピークに一時は減少傾向にあったが、08年から増加に転じ、同年の被害の届け出は前年比2.5%増の14万5429件だった。
 都内では年間1万8千件前後の届け出があり、この10年で2.3倍に急増。検挙・補導件数も増え、今年1〜5月は08年同期比14.9%増の6109人となった。
 事態を重くみた警視庁は、6月までの約2カ月間、今後に生かすため、万引きで検挙・補導した約千人に動機、罪の認識、うち約500人の未成年者には家庭環境や小遣いの額などを聞き取りした。調査は54項目にのぼり、結果を集計中だ。
 同庁の「研究委員会」は桜美林大学の坂井昭宏教授を委員長に、倫理学や道徳教育、哲学の専門家4人と防犯対策の責任者である同庁生活安全部長で構成。月内に対策の提言をまとめる。
 05年6月に設立された万引きの調査研究をするNPO法人「全国万引犯罪防止機構」(河上和雄理事長)が今年3月、日本小売業協会や日本書店商業組合連合会など会員を中心とした小売業924社に被害実態調査を行い、324社から回答を得た。
 その結果、38.5%が「被害が増えた」と回答。その要因として「犯罪意識の欠落」74.7%、「失業者の増加など長引く経済不況」53.1%、「店舗大型化」47.5%が続いた。うち「不況」は前年より21.5ポイントも上昇した。
 被害を警察に通報した場合、業者の52.3%が警察署での書類作成などで1時間以上を割かれ、44.6%が「負担に感じる」と答えたという。
 警視庁は、被害を届けるよう業者側に積極的に働きかけるには業者側の負担を軽くする必要があると考え、警察官が被害店に出向いて書類を作ることなどを検討する。
 同庁幹部は「たかが万引きと考えるのは大間違い。犯罪の芽を摘むため、警察や司法、児童相談所の過程を通じ万引きを二度としないと誓わせないといけない」と訴える。(小林誠一)

2009年7月4日 asahi.com


河上さんとこの調査結果にも触れられていますが、見出しでは「不況のせい」に「?」をつけてその調査結果に疑問を呈しています。あたかも「不況のせい」ではない、と言いたいかのようでありますが、「万引きは、より深刻な犯罪への入り口となる「ゲートウエー犯罪」」であるという、警察の言い分をそのまま書いてしまった小林記者は「無自覚に」そうしているわけではないようです。これは小林さんが意識して書いた警察の広報記事であり、警察の見解では万引の増加を「経済不況」に求める視点は排除することを示しています。

小林さんも書いている通り、警視庁では独自の調査を用意しており、その概要は次のようであります。

万引き防止:警視庁研究委が初会合 月内に提言 /東京

 増加する万引き事件の防止策を検討するため警視庁は4日、有識者らによる調査研究委員会の初会合を開いた。警視庁が万引きの容疑者ら約1250人から聞き取った意識調査を踏まえ、7月中にも提言をまとめる。
 委員会は、委員長の坂井昭宏・桜美林大学教授ら倫理学の専門家4人と山下史雄・警視庁生活安全部長がメンバー。今年4〜6月に万引きの容疑者約1000人を含む約1250人から聞き取った動機や生活状況、就労状況など54項目の調査結果を分析し、有効な対策を検討する。会合の冒頭、坂井教授は「東京にふさわしい斬新かつ的確な防止策を提言したい」と抱負を語った。
 警視庁によると、08年の万引きによる検挙・補導者数は、03年の約1・5倍にあたる1万2695人だった。今年は5月末までに、前年同期比約15%増の6109人に上っている。
 中でも少年は前年同期比約43%増の1742人と急増。非行を繰り返した少年が最初に手を染めた犯罪の約4割が万引きだったとのデータもある。
 警視庁幹部は「軽微な犯罪として放置すれば、治安に影響を与えかねず、早期に手を打つ必要がある」と危機感を募らせている。【町田徳丈】

2009年7月5日 毎日新聞〔都内版〕


「防止策」が「的確」であるのはともかく「斬新」で、しかも「東京にふさわしい」というのがどういう事であるのかよく分かりませんが、多分「東京」というのは「石原」と読むんでしょう。もしかすると最初から「石原」と書いているのかもしれず、しかしそれが「東京」に見えたとしたらその字は石原さんが書いているんですが、そんなことを言っている「倫理学の専門家」が、その専門領域からしても「不況」だの何だのという問題とは関わる事が出来ないのは明らかでしょう。河上さんの折角の努力も無駄というものです。

それでもこの記事に添付された警察庁による2008年の全国の万引きの年齢別検挙者数によれば、101,504件の検挙者のうち万引の主力は「65歳以上」の27,015件であり、いわゆる「少年」の「19歳以下」の26,303件をわずかに抑えてトップに躍り出ています。これは万引は餓鬼の犯罪だと思っている僕たちの予想を裏切るものであり、ついでに「非行を繰り返した少年が最初に手を染めた犯罪の約4割が万引きだった」というようないわゆる「ゲートウエー犯罪」論を取り敢えず緊急の問題とすることをいささかためらわせるものでもあります。万引は最初の犯罪かも知れませんが、最後の犯罪でもあるのです。

もっとも、だからこそ「倫理学の専門家」こと坂井昭宏さんが登場する事になったわけです。警察にとっては凶悪犯罪が減少する中で万引が増えているのは願ってもない事で、その数字さえあれば良いようです。実際にはその内実は喰うに困った爺さん婆さんがやっている事である、というようなことは無視しなければなりません。ここで「倫理」が出て来るわけで、ここに出て来る「倫理」というのは坂井さんがどう考えているかには全く関わりなく警察の利用に供する以上は「遵法意識」とイコールです。

「たかが万引」、されど、しかしやっぱり「たかが万引」です。「ゲートウエー犯罪」論は一般に社会が犯罪経験者をどのように処遇するかに関わりますので、あまりアテになりません。問題は多分「たかが万引」に「遵法意識」を求める側にあります。なぜなら法は窃盗を犯した人間に対する処遇を定めたものでしかなく、それを「遵法」すべきなのはオマワリさんの側であるからです。法に定義される「犯罪」を僕たちが「倫理」問題として捉える必要はありませんが、「法」以前に他人のところにあるものを勝手に持ってくるのを憚るような感覚は存在します。これは法的な所有概念によるものではなく、おそらく単にある人とある物が「近く」、親密な関係にあるという事実によるものでしょう。そこで僕たちが万引をしない場合、それは必ずしも「遵法意識」によるものではありません。しかし僕たちのこのような「感覚」は、法制度上の「所有」と背馳することがしょっちゅうです。

この意味で「たかが万引」は「たかが万引」ではなく、こういう単純な現場から「感覚」から「法」の世界へと僕たちを導き、ビンボー人が餓死したり家から追い出されたりする事が極めて「正義」にかなった事であるということを説得しようとするのが「倫理学」の、すくなくとも坂井さんの「倫理学」の役目であるようです。もちろんそれは単に、納得出来ない「法」を押し付ける暴力に支えられた「倫理」であり、その限りではあってもなくても良い「役目」でしかありません。これでは坂井さんはまるで自分の飯の種を食いつぶしているようなものですが、そうではないような「倫理」が他方にあるのであって、坂井さんみたいなのはそれとの闘争を演じることによって生き存えています。

倫理学が法哲学と独立しているのは、立憲主義によって法というものが国家に対する手続命令として位置付けられた結果、その命令を発するところの人民に、法とは独立した規範が要求されたことによるんでしょう。したがって法をそのような規範の反映とするにしても、人が従うべきはこの意味での「倫理規範」であって「法規範」ではない事になりますから、「法規範」に従うべきであると「倫理学者」が言い出すとすると、彼は「倫理」と「法」の両方に寄生し、そしてそのどちらからも必要とされていない存在になるんでしょう。死んでも惜しくないとは正確にこういうことを言うのです。


posted by 珍風 at 22:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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