2009年07月09日

被害者参加冤罪裁判

被害者参加制度:制度半年、参加は3% 224事件350人申し出

 昨年12月に始まった刑事裁判の「被害者参加制度」について、最高検は25日、5月末までの半年間の運用状況を発表した。全国で起訴された224事件で350人の被害者や遺族らが参加を申し出た。制度対象事件の約3%に当たり、最高検は「少しずつ制度の周知が進んでいる。トラブルもほとんどなく、適切に運営されている」としている。
 最高検によると、罪名別で参加申し出が最も多かったのは、自動車運転過失致死傷の109件。▽傷害36件▽殺人・殺人未遂27件▽強姦(ごうかん)などの性犯罪22件−−などと続いた。地検別(支部・区検含む)の申し出数は(1)大阪55件(2)横浜42件(3)東京34件の順だった。
 5月末までに参加が許可されたのは206件321人。134件で210人が実際に出廷した。89件で107人が被告に質問、63件で74人が量刑などについて意見を述べた。
 最高検は被害者参加の判決への影響について「従来と変わらないと認識している。検察も被害者の心情を尊重しながら、これまでと大きく変わらない求刑を心がけている」としている。【三木幸治】

2009年6月26日 毎日新聞


「被害者参加制度」に申し出があったのは224事件で対象事件の約3%。人数では350人。理由は分りませんが裁判所から参加を拒否されたのが1人(これで1件になるかどうかは不明)、後で取り下げたケースが9件11人ありますから、実際に「参加」するはずなのは338人ですが、5月末までに許可が出たのが206件321人ということですから8件または9件で17人が「未決」状態です。

罪名別の申し出順位は申込数によるものと思われます。1位の「自動車運転過失致死傷」109件は48.66%でおよそ半数を占めます。以下「傷害」、「殺人・殺人未遂」、「性犯罪」と続きますが、この「順位」にはほとんど意味がありません。「自動車運転過失致死傷」が多いのは、単に交通事故が多いからなのではないでしょうか。調査期間内におけるそれぞれの罪名別の起訴数が分らなければ、「性犯罪の被害者等のうち22の事件で裁判に参加する申し出があった」ことの意味は不明です。まあ新聞記者さんなどというものはそういう疑問を持ったりするべきではないんでしょう。

同様に地検別の申し出数の順位も意味がありません。大阪が1位、横浜が2位で3位は東京ですが、実は4位が千葉です。どうも刑法犯の多い順にならんでいるようで、特に大阪の人が裁判に参加したがるとかそういうことは読み取れません。単なる実数だけの提示では何のことやらさっぱりです。とくに酷いのがこの記事にはさすがに書いていない申し出た人の内訳です。

多い順に被害者の父母84人、被害者本人70人、委託を受けて弁護士が申し出たのが67人、被害者の配偶者37人、被害者の子どもが55人だそうです。ところで天地がひっくり返っても被害者本人が裁判への参加を申し込むことが不可能な場合があります。いうまでもなくそれは「殺人」ですが、殺人の場合に申し出たのは誰がどのくらいなのか。また、被害者の子どもが2歳や3歳ではさすがに裁判に参加するというわけにもいきますまい。ですから「被害者の子どもが裁判に申し出たのが55人あった」からといって、それが何を意味しているのか皆目見当がつきません。

新聞記者さんの役割は検察が発表するこれらの無意味な数字の羅列をそのまま書き写して印刷に回すことにあるようです。ですから被害者参加の判決への影響について最高検が「従来と変わらないと認識している」などと言っているのをそのまま書いてしまうのです。検察が「従来と変わらない」と言っている場合、あるいは本当に従来と変わっていないのかもしれませんが、「と認識している」とか「心がけている」という言葉遣いをした場合には事実と反することを言っている可能性があります。もっとも最高検のこの発言については検証することが極めて困難であることが予想されます。どれひとつとして同じ「事件」は存在しないので比較対照することが難しいのです。しかし、そうであれば記者さんは検察官の疑わしい断言などは書かなければ良いだけの話しです。

だからといって実際に裁判に参加してみた「被害者」の意見も取り扱いには十分な注意を必要とします。

店員殺害被害者の父、裁判参加「制約多かった」

 大阪市の飲食店従業員の木下智仁さん(当時24)が殺害され、切断された遺体が岡山、島根両県に遺棄された事件で、殺人と死体損壊、死体遺棄罪に問われた男女の裁判は6日、鳥取地裁(小倉哲浩裁判長)が山口県宇部市、無職森山雪乃被告(25)に懲役18年の判決を言い渡し、一審判決が出そろった。男女両方の裁判に被害者参加制度を利用して加わった被害者の父、之人(ゆきと)さん(48)は判決後、県庁で会見し、「色々と制約があり、裁判所にはもっと柔軟な対応をしてもらいたかった」と同制度の問題点を指摘した。
 同制度は被害者感情なども裁判に生かそうと昨年12月から導入され、被害者やその遺族が、質問をしたり、求刑したりできるようになった。今回の事件では絞殺し、死体を損壊、遺棄した山本大地受刑者(23)の公判は6月2日から4日まであり、懲役20年の一審判決が確定した。共犯とされた森山被告の公判は6月30日から7月2日まで開廷され、6日判決公判があった。之人さんはこの間、ずっと出廷し、意見を述べるなどして裁判に参加した。
 「検察官の横にずっと座り、さらし者になった感じがします」。之人さんは率直な感想を語った。山本受刑者の公判では「命を持って償う気持ちはあるのか」「こんな犯罪を起こしてこれからも生きていくつもりか」などと聞いて欲しいと検察官に頼んだ。ところが、検察官が裁判官に質問の是非を問うと「不適切な内容」として許されなかったという。「当たり障りのない質問しかできない。これでは参加した意味がない」と振り返った。
 裁判制度に関する説明も不十分だったという。山本受刑者、森山被告の裁判とも、裁判官、検察官、弁護士が非公開で争点整理を行う「公判前整理手続き」が開かれたが、裁判所も、地検も手続きの内容を教えてくれなかった。之人さんは「手続きでは争点など重要なことが話し合われる。遺族の裁判への参加を認めるのなら、事前に手続きで何が話し合われたのか、参加する遺族に知らせるべきだと思う」とも話した。
 求刑や判決にも不満が残った。「理由もなく、突然、殺害されたうえに、バラバラにされた遺体を山中に捨てられた。日本では殺人事件の被害者が1人だと死刑にはならないと知っていたが、やはり遺族は、極刑でない限り受け入れることができない」
 森山被告の公判では、山本受刑者の時よりも、遺族の気持ちをより伝えたいと、代理人を頼んだ弁護士に「死刑、もしくは無期懲役」と求刑してもらった。森山被告の判決で小倉裁判長は「遺族の気持ちは十分に理解できる」と之人さんに理解を示してくれたが、「他の事件の量刑を踏まえた公平さを配慮した」として極刑は回避している。
 「親として何もしてやれずに智仁に申し訳ないという気持ちでいっぱい。被害者参加制度は重要な制度だが、加害者の権利が優先されていないだろうか。裁判所、検察庁ともに、もう一度、被害者とその遺族の権利や、思いを考えて欲しい」と厳しい表情になった。(倉富竜太)

2009年7月7日 朝日新聞


これはまあ、要するに1件だけの例です。ゲルマニウム入りの美容危惧の宣伝と同様、この記事にも「※個人の感想です」と書いておく必要があります。だいたい「参加」は強制ではない、はず、ですから「さらし者になった感じがします」というのはちょっと酷すぎるようです。イヤなら止めても良かったわけで、こういうのは「率直」とはいいません。更にこの木下さんは「当たり障りのない質問しかできない」ことにも不満だそうです。しかし木下さんが許してもらえなかった「質問」は、被告人に無理矢理「死刑」を受け入れさせようとするものでしたし、「極刑でない限り受け入れることができない」から「不満が残った」そうです。木下さんは裁判官が「遺族の気持ち」を「加害者の権利」よりも無条件で優先すべきであると考えているようですが、もちろんそんなことはありません。しかし木下さんがそんな風に思ってしまったとすれば、それは「遺族」ならではの「※個人の意見」なのかも知れませんし、誰かが木下さんに過剰な期待を抱かせたのかも知れません。いずれにしても木下さんの「不満」は判決が検察の求刑よりも低かったというものであり、そういう例をことさらに選択して報道するのが朝日新聞のやり方であるようです。

これはつまり裁判官は検察の求刑通りの判決を下せ、ということを「遺族」の名を借りて言っているわけで、それが朝日新聞の主張するところであると考えてよいでしょう。なるほどこのような議論は検察にとって大層有り難いことでしょう。まして、特にこのような場合には。

舞鶴女子高生殺害事件、公判に遺族参加へ

 京都府舞鶴市の高校1年、小杉美穂さん=当時(15)=殺害事件で、殺人と強制わいせつ致死罪で起訴された同市の無職、中勝美被告(60)の公判で、京都地裁(米山正明裁判長)が被害者参加制度に基づいて遺族の参加を認めたことが9日、分かった。
 遺族の参加申し出に対し、中被告の弁護団は反対したが、米山裁判長は参加を認めた。地裁と地検は「この件に関して何も申し上げられない」とコメントした。
 被害者参加人は、公判で被告に直接質問したり、量刑についての意見を述べることができる。

2009年7月日 産經新聞



否認事件の場合は「遺族」に大きな心理的負担を強います。「遺族」は被告人が加害者に他ならない、ということを検察官に聞かされて来ていますから、「犯人」が否認する様は「遺族」にとって相当なトラウマ的な体験となり得ます。それどころかその「犯人」に対して無罪判決が下される可能性が、もし司法が機能している場合には、あり得るのですから、その場合検察は「遺族」に対して責任を負います。

しかし恐らくこの事件の場合検察は「遺族」に多くを負っています。「遺族」の参加は検察にとってとりわけ大きな助け舟となるでしょう。検察はどうやら有力な証拠を持ち合わせないようですが、こういう場合こそ検察は、検察が出来ない、しかしやりたいことを「遺族」に期待するようです。それはつまり根拠もなく被告人を犯人視するということです。検察権は職責上なんの証拠もなく起訴することは出来ませんが、そこをカバーしてくれるのが「遺族」です。検察には曲がりなりにも「証拠」とかが必要なのですが、「遺族」は何の証拠もなく勝手に犯罪事実を認定し、量刑まで要求することが出来るのです。それはつまり「被害者」が「証拠」の代わりをするということです。

そんなことで「厳罰化」が推進されれば、検察としてはそれで良いのでしょう。しかしながら裁判官が「遺族の処罰感情」を理由にして死刑判決を出し、それが執行され、尚かつあとになってこの被告人が「犯人」ではなかったことが明らかになったとしたらどうなるのか。「遺族」は冤罪による殺害の責任を問われるのではないでしょうか。他人に問われなくても自分自身に対してそれを問うことになりそうです。もしかしたら「遺族の処罰感情」が強くなければ、冤罪は防げないかもしれませんが取り返しのつかない判決は出なくて済んだかも知れないのです。冤罪が疑われる例では「被害者参加制度」は検察の都合には合致するかもしれませんが、それは同時に誤った判決の責任を「遺族」押し付けようとするものともなります。そのような場合真実が明らかになることによって逆に「遺族」を傷つけることになるでしょう。否認事件で検察が「遺族」を利用する際には、「遺族」にだけストレスが押し付けられてしまいます。もっともこれは「被害者」とか「遺族」(の団体)が自ら望んだことでもありますが、これは正にひとつの被害です。そしてこのような窮地から「遺族」を救うには道はひとつしか残されていません。事実に反しても被告人を有罪とし、極刑を科すことです。つまり裁判官は検察の求刑通りの判決を下せ、ということであり、それが朝日と産経の意外と数多い一致点のひとつでありましょう。


posted by 珍風 at 23:59| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>「被害者参加制度」に申し出があったのは224事件で対象事件の約3%。人数では350人。

3%しかいないというのは、周知云々より、やっぱり参加したくないって人が多いと思うんだけどなぁ。被害者なんたらの会みたいなのぼせ上がった一部の団体がほとんどなんじゃないの?

俺はどうも被害者参加制度が好きになれないから(裁判員制度は条件付きで賛成)、冤罪事件で被害者感情を優先してみんな痛い目見ればいいと思ってる。被害者感情を重視するのはあまり望ましくない。
Posted by gen at 2009年07月10日 13:00
「参加」したところで「被害者」側には何のメリットもないんですから「参加したくない」のも無理はありません。裁判は敵味方に分かれての争いであり、それに参加することが彼等の心理的なケアに資するとも思えません。

それとは別に「参加」する「遺族」や「裁判員」のいないところでこっそりと裁判の筋道を決めてしまう「公判前整理」にも問題があって、これは「被害者」や「裁判員」が存在しても裁判に影響がないようにやってるようです。したがって「被害者」にどのような質問が許され、または許されないかによって判決の行方がだいたい分る。木下さんが止められたような質問は、死刑判決を予定している場合には許されるでしょう。

同様なことが裁判員の評議においても行なわれるのではないか。裁判は検察と裁判所の間で予定されたように行なわれ、「被害者」だの「裁判員」だのは黙って言う通りにしていることが期待されています。国民も舐められたものです。

世間には「冤罪」が沢山あるようですが、正式に認められたのは僅かです。しかし冤罪、てゆうか誤審に被害者が関わることによって「なんたらの会」には再審請求に反対する動機が存在するようになるでしょう。反対するんだろうな、多分。犬もいろいろ大変だ。「被害者」とか「遺族」にとって正しい犯人が処罰を受けることは大切なことかと思いますが、足利事件について「あすの会」は何のコメントもないのはどういうわけだ。吠えてみろ。
Posted by 珍風 at 2009年07月11日 10:09
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