2010年09月11日

あなたの自殺をクリーンに浄化

向精神薬依存の治療脱却へ=薬剤師活用など5施策−自殺、うつ病対策・厚労省


 自殺やうつ病対策を検討してきた厚生労働省のプロジェクトチームは9日、自殺との関連が指摘される医師の指示量を超えた向精神薬の服用防止に向け、薬剤師による患者への積極的な声掛けなど5項目の施策をまとめた。

 同省は、不用意な投薬規制によって患者を医療から遠ざけない配慮に触れつつ、「薬物治療のみに頼らない診療を目指す」としている。

 新たな施策では、薬剤師を「適切な医療に結び付けるキーパーソン」と定義。積極的にコミュニケーションを図ってもらい、向精神薬に依存するリスクの高い患者の早期発見につなげる。

 一般の診療科と精神科の連携強化も重視。例えば、睡眠薬を処方しながら不眠などが改善しない場合は、うつ病などの可能性を疑い、専門医への紹介を円滑に行える態勢の構築を目指すとした。

 このほか、向精神薬の処方に関する指針の普及や、医療従事者の研修充実、チーム医療の推進などの3項目も掲げた。

 さらに、大規模な処方の実態調査や、不適切な処方の把握方法など五つの検討課題を定め、それぞれワーキングチームの設置も決めた。

2010年9月9日 時事


「自殺予防週間」にも関わらず、この件、実は「自殺予防」とはあまり関係がないようです。たしかに「精神科を受診後に自殺した患者が、直前に薬を過量摂取しているケースが多い」(日本経済新聞)ので、精神科における服薬コンプライアンスの不遵守は「自殺」と関係があるようですが、「過料摂取」はそれ自体が自殺を目的としたものではありません。

精神科に行くとエチゾラム0.5mgとかブロマゼパム1mgとかを処方されることが多いようですが、これらの50%致死量は、文献にもよるようですしマウスとラットでは違うようなんですが、少ない方をとってそれぞれ3500mg/kgとか889mg/kgとかということになっているようです。エチゾラムだと1mg錠もありますが、最初は0.5mgを処方するはずですから、体重1kgあたり7000錠が必要になります。体重60kgだと42万錠。ブロマゼパムでは5mg錠で1万700錠くらい。

これだけ一度にのめば、仮にそれが可能であったとして、それが何であっても死んでしまいそうです。そういうわけで、病院を何軒渡り歩こうとも、もらった薬を一度の飲み下そうとも、自殺というのは極めて困難です。もっとも、薬剤の「致死量」というのは飽くまでもネズミにとっての話ですから、人間様の場合はちょっと違うかも知れませんし、アルコールを併用するとかなり違って来るというのも確かな話らしいのですが、まあ、やってみなくちゃ分かりません。人によって、また体の調子によって「効き」方は違うようですから。

いずれにしても、ここで問題にしている「医師の指示量を超えた向精神薬の服用」は、自殺との「関連」が指摘されるとはいえ自殺の「手段」ではないようです。それなら何かというと、これはリクレーショナルな、あるいは「気晴らし」のための服用です。「自殺との関連」で言えば、それは追い詰められた人が人心地ついてあと1日ぐらいは死なずにやって行けるような、そんな向精神薬の服用のあり方である可能性があります。

したがって、「リスクの高い患者」を発見することは、仮に有効な自殺予防手段が存在する場合には予防措置をとる対象を見いだすのに役立つでしょう。ただしそれは自殺予防のための手段が存在し、予防プログラムに「患者」を導入することが出来ればの話です。それが出来ない場合、ターゲットは遠ざかり、自殺へと追いやられるでしょう。

既に「不用意な投薬規制によって患者を医療から遠ざけ」る可能性が指摘されているようですが、この危惧が現実のものとなった場合には自殺のリスクの高い人はどっか他所へ行ってしまう一方で、通常の患者の自殺リスクを高めることになります。そして普通に考えるとこのような事態を引き起こす危険は決して低いものであるにもかかわらず、このような「施策」が提唱されるとすれば、それはこの「施策」が自殺の防止を目的としていないからに他なりません。

向精神薬の「乱用」が命と引き換えにするほどの問題であるかどうか、そんなたいした問題ではないと思う人もいるかも知れませんが、これは政府の「価値観」によるわけで、政府としては自殺者が他方増えることになっても「クリーン」な社会を目指したいのかも知れません。菅さんの合い言葉は「クリーン」とか「浄化」ですから、これはあり得ないことではありません。

したがって精神医療一般についても、いわゆる「クリーンな」、「薬物治療のみに頼らない診療」を目標としています。現在のところ「薬物治療」以外に一般的に有効な治療手段が存在するのかどうか、はなはだ疑問でありますが、薬物の乱用が減るのであれば精神病患者が苦しむのに任せる、というのであればそれはそれで一つの見識ではあります。何をおいても「クリーン」を最優先し、「浄化」を社会政策の中心に置くという場合には、少数者が「最小不幸」を担うことになるのは当然です。キチガイなんざどっか見えない所に「隔離」してしまえば、一般の「クリーン」好きな国民のお気に召すことでしょう。

まあ、「自殺予防」というのは樹海に監視カメラを付けたり、東尋坊をパトロールしたり、「自殺」そのものを「予防」、というか「邪魔する」くらいのものであることが多いものですが、政府では自殺しそうな人を見つけようとしている点で一歩進んだものなのかも知れません。見つけて、それでその人をどうするかは知りませんが。同じく厚生労働省のメンヘル対策検討会では、労働者の自殺リスク自己申告制度を検討しています。

健診とは別にストレス検査、企業に義務付け 検討会提言


 職場での精神疾患を把握する方法について検討していた厚生労働省の「職場におけるメンタルヘルス対策検討会」は7日、健康診断とは別に、うつなどの兆候がないかなどをチェックするストレス検査の義務付けを提言する報告書を公表した。

 7月の報告書案では、プライバシー保護に対する懸念があったため、健康診断でストレス検査を行うことは見送られた。今回の報告では、ストレス検査を健康診断と別の枠組みにし、プライバシーを守る方法も示すことで、すべての企業が取り組みやすいようにした。

 報告書によると、企業は健康診断とは別に「よく眠れない」「ゆううつだ」などの項目を含むストレス検査を実施。医師は、面接が必要であると判断した場合、労働者本人だけに通知し、企業には知らせないようにする。

 面接に応じるかどうかは本人が判断する。面接の結果、医師が休業や残業の制限、配置転換などが必要と判断した場合、本人の同意を得た上で、企業に意見を言うことができる。企業側は面接を理由に本人に不利益な取り扱いは行ってはならない。

 報告書案の段階では、健診の問診票にストレス検査の項目を追加し、自覚症状を確認するとしていた。ただ、自覚症状の有無や医師との面接の必要性は企業側に伝えられる形となっていた。このため、検討会の委員や厚労省内からは「自覚症状のある労働者が不利益な取り扱いを恐れ、きちんとした検査はできない」などの異論が出ていたという。

 今後、公労使でつくる労働政策審議会で労働安全衛生法改正の必要性も含めて議論し、早ければ2012年度からの実施を目指す。ストレス検査に含める項目や、検査費用の負担、医師の守秘義務などの問題については労政審で詰める。

2010年9月7日 asahi.com


検査は義務づけとなる見込みですから、労働者はこの検査を受けるように企業から強く勧奨されることになりますが、この検査にどのように回答するか、その結果に基づいて意志による面接を受けるかどうか、面接の結果医師が企業に意見を言うかどうか、これは全て労働者の「自己責任」です。企業は「不利益な取扱を行なってはならない」そうですが、不利益な取扱を行なったところで企業に損害は生じないのですから、当該労働者に対しては不利益な取扱が行なわれることになりますが、その責任は労働者側にある、ということです。

したがって自殺リスクを抱えた労働者は、この「検査」にどのように対応しようともリスクが軽減されることはありません。検査でウソをついてメンタルな問題が存在しないフリをしても何の役にも立ちませんが、自分の問題を企業に対して明らかにすることは彼を不利な状況に追い込む可能性があり、それはリスクを高めるでしょう。どっちに転んでもマシなことはありませんが、どうせもう死ぬつもりだからどっちでもいいや、という人もいるかも知れません。しかしハイリスクグループに属する多くの人が、転び方によって結果が大いに違って来るものなのです。

もっとも企業側から見れば、ある労働者は検査の回答を偽って自ら救済の機会を失ったのであるし、別の労働者が左遷されたと思って自殺しても、それは企業として自殺防止のための措置をとったものであるということが出来ますから、これはなかなか便利な制度です。個々の労働者の自殺リスクはどうでもいいですが、企業にとっての労災リスクを軽減する意味で、この「検査」は責任のかなりの部分をを労働者に押し付けることが出来るでしょう。

ついでに、「医師の守秘義務などの問題については労政審で詰める」そうですが、労働安全衛生法では「産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる」(第13条)とされているところ、内緒にしておくのはどうかと思うお医者さんもいるでしょうし、企業との契約関係を重視して、「必要」でない「勧告」も求められれば積極的に行なうにやぶさかでない、という人もいるでしょう。てゆーか、「産業医」ってのは労働者にあまり信用されていないので、とりわけこのような役割には適していない、というのが実情ですが。


posted by 珍風 at 15:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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