どうも文明開化以前の連中にやらせておくと「最低基準」がどんどん「最低」になっていくんですが、今日はその「新しい最低基準」の案のうち、比較的ウケがよさそうな部分をわざわざ報道させていました。時間外手当の割増率を増やすんだそうですが、これがまたすごいことになってる。
残業代割増率、50%に引き上げ…1か月80時間超で
政府・与党は6日、今国会での労働法制見直しの柱としている残業代割増率の引き上げに関して、残業時間が月80時間を超える場合の割増率を現行の25%から50%へ引き上げることを決めた。
ただ、従業員300人未満の中小企業については、負担増をさけるため、割増率を3年間据え置き、その後、引き上げるかどうかを検討する。政府は近く、こうした内容を明記した労働基準法改正案を国会に提出する。
安倍首相は6日、首相官邸で中川・自民党、斉藤・公明党の両政調会長や柳沢厚生労働相らと会談し、割増率の内容を決めた。
現行制度では、残業時間の長さに関係なく、割増率は一律25%となっている。
改正案では、残業時間に応じて割増率を3段階に分け、〈1〉残業時間が月45時間までならば割増率は25%とする〈2〉45〜80時間ならば25%以上とするよう努力する〈3〉月80時間を超えたら50%とする――と定める。政府・与党は割増率の引き上げが長時間労働の抑制につながるとしている。
一方、管理職一歩手前の事務職らを1日8時間の労働時間規制から外す「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション」制については、労働基準法改正案には盛り込まないことを正式決定した。厚労相の諮問機関の労働政策審議会は同制度について改めて協議する。
2007年2月7日 読売新聞
月45時間までならば現行通り25%、45時間から80時間ならば「25%以上とするよう努力する」。誰もそんな努力はしないので、実態としてはこれも現行通りの25%。月80時間超でやっと50%です。もちろん単純な不払いから巧妙な残業隠しまでのありとあらゆるサービス残業の手練手管を放置したままでの話です。なんのことはない、ちっとも増えないようになっています。
ところでこの「45時間」だの「80時間」だのという数字はどっから来てるかっていいますと、厚生労働省が2001年に発表した「脳・心臓疾患の認定基準の改正について」という、過労死の認定基準のなかで、「脳・心臓疾患の認定基準の概要」のうち、「4 認定要件の運用」の「(2)過重負荷について」のなかに次のように定められているのによります。
ウ 長期間の過重業務について
(ア)疲労の蓄積の考え方
恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわたって作用した場合には、「疲労の蓄積」が生じ、これが血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ、その結果、脳・心臓疾患を発症させることがある。このことから、発症との関連性において、業務の過重性を評価するに当たっては、発症時における疲労の蓄積がどの程度であったかという観点から判断することとする。
(イ)評価期間
発症前おおむね6か月間
(ウ)過重負荷の有無の判断
著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては、業務量、業務内容、作業環境等を考慮し、同僚等にとっても特に過重な身体的、精神的負荷と認められるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断すること。具体的には、労働時間のほか前記イの(ウ)のb〜gまでに示した負荷要因について十分検討すること。その際、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に着目すると、その時間が長いほど、業務の過重性が増すところであり、具体的には、発症日を起点とした1か月単位の連続した期間をみて、
[1] 発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いが、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること
[2] 発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること
これは業務に起因する加重負荷によって発症した脳血管疾患(脳内出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症)や虚血性心疾患等(心筋梗塞狭心症、狭心症、心停止、解離性大動脈瘤)の認定のための基準です。ということで「45時間」とか「80時間」という数字は、そんなに働いてると病気になったり死んだりする、危険極まる数字なわけです。特に「月80時間を超える」ことになりますと、婉曲語法で「業務と発症との関連性が強い」、奥谷さん流に「ハッキリ言って」ほぼ確実に病気になって死ぬ、「本当は恐い家庭の医学」で言えば「大変なことになりますよ」ということです。
本来の労働者保護の観点からしても、人が死ぬようなことは禁止しなければならないのですが、八代さんによれば「そんなことはできません。」せいぜい「抑制」するために割増率を引き上げるんだそうですが、50%で計算するのは残業時間が80時間1分目からです。毎月80時間きっかり残業していても25%です。月に80時間というと1日平均4時間弱になります。定時終業が17時だとすると毎日毎日21時まで。その程度に「抑制」するというのですから、まったくもってありがたい話ですが、実際のところこれは心臓にはかなり危険なレベルです。平気なのは晋三だけです。また逆に言えば、50%の割り増しさえ払えばそれ以上の残業をさせても良いわけです。50%程度の割増率に抑制効果があるのかどうかもはなはだ疑問であり、この「改正」は超長時間労働に法による認可を与えたのと同様であるとも言えるでしょう。便所虫は007と同じく「殺しのライセンス」をもらうことになるわけです。
そこで毎月きっかり80時間の残業をしたとすると、80時間までの時間外手当は25%の割増率でも罪になりませんから、平均時額の100時間分です。これを6ヶ月続けてめでたく心臓が止まったとすると、平均時額の600倍、これがあなたの生命の値段です。仮にあなたの年収が残業代を除いて400万であるとします。1年の労働時間は、1年が52週であることから週40時間かける52週で2080時間です。そこであなたの平均時額は1923円、600倍すると1,153,800円となります。これだけの金額と引き換えにあなたは死ぬことになります。
もちろん、平均時額の計算はそれほど単純ではなく、これよりも少なくなるはずです。年収400万のあなたなら、生命の値段はせいぜい100万といったところでしょうか。中古車くらいなら買えますかね。コイヌミじゃないけど人生色々、人の死に方にも色々ありますが、随分安い死に方です。奥さんに生命保険をかけてもらって殺してもらったほうがよっぽど値打ちがあるといえましょう。一度奥さんと相談してみてはいかがでしょうか。
ところで、前述の「脳・心臓疾患の認定基準の改正について」という文書があり、別段隠されてもいないのですから、長時間労働が病気や死をもたらすものであることは誰でも分かるはずです。そこでこのような状態を放置し、数ヶ月継続させた場合、使用者が未必の故意による傷害罪もしくは殺人罪に問われないのは不思議なことです。刑法第199条には「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。」とされているところで、刑の下限が5年ですから執行猶予もつかないのですが、従業員を殺すような経営者などは、見栄や面子にこだわって壮大なロスを発生させる一方で従業員にしわ寄せしていたりする傾向がありますから、いなくなったほうがかえって会社の業績が良くなったりするものです。従業員も管理職も、役員だって株主だってみんなみんな喜ぶと思いますよ。刑務所も社長さんをお待ちしています。ろくに作業に従事出来ない受刑者が増加している厳しい環境の中ですが、刑務作業の効率化や刑務所作業製品の品質向上に、社長さんの優れた手腕が大いに期待されています。どうか胸を張って塀の中へおいで下さい。


