2007年09月02日

医者と患者と記者と筆者の人格合戦

それはまだ僕が神様を信じていた頃、8月のとある水曜日の未明に買い物中に状況がおかしくなった奈良の妊婦、救急車を呼んだものの受け入れ先の病院がなく、待機すること1時間25分、やっと40キロほど離れた大阪府の高槻病院が受け入れてくれるというので出発できたのが4時20分頃、搬送中の午前5時頃に車内で流産、あわてた救急車は5時10分頃高槻市内で他の車と事故発生、妊婦は別の救急車に乗り換えましたが高槻病院は既に流産したものの処置は困難として受け入れを拒否、救急車は他を当たってから再度要請し、結局は受け入れてくれた高槻病院に着いたのは5時50分頃でした。

奈良県の周産期医療搬送システムはかかりつけの産婦人科医の存在を前提としていましたが、この妊婦にはかかりつけのお医者さんがいなかったのです。そうなると一般搬送と同様の手続きをとることになるのですが、その場合受け入れ先病院探しが難航する場合もあります。てゆうか難航するからかかりつけ医師を期待した搬送システムが出来たのでしょう。

ところが実に偶然というのは恐ろしいもので、この辺について朝日新聞神奈川版が週の初めの日曜に記事にしていたのでした。

企画特集2【赤ちゃん】
悩まし「飛び込み出産」 費用踏み倒しも

  妊娠してから一度も検診にかからず、陣痛が来てはじめて救急車をよんで病院に運ばれてくる――。産科医のあいだで「飛び込み出産」とよばれる事例が、最近、基幹病院で増えている。胎児の情報が少ないうえ、中には出産費用を踏み倒す妊婦もおり問題も多く、基幹病院も頭を悩ませている。県産科婦人科医会も実態把握のため調査に乗り出した。(大貫聡子)
  横浜市南区の横浜市大センター病院で05年に受け入れた飛び込み出産は7件だったが、06年は一挙に16件に増えた。
  「以前は年に数件だったが、最近は月に数件のペースでやってくる。基幹病院の産科医は本来だったらリスクの高い妊婦を診なければならないのに、飛び込み出産は大きな負担だ」と横浜市大センター病院の高橋恒男医師。
  一番多いのは陣痛がきておなかが痛くなり、119番通報するケース。中には「破水してしまった」といって深夜に病院の守衛室にあらわれた妊婦もいたという。
  横浜市南区の県立こども医療センターでも、昨年まで年数件ほどだった飛び込み出産が、今年は7月段階ですでに11件に上っている。
  山中美智子医師は「基幹病院でなくても診ることができるのに、最近は産科医が減っているためか、飛び込み出産を断る町中の病院が多い。救急隊が、何軒電話しても断られたと困り果て、基幹病院に連絡してくる」と話す。
  多くの医師が飛び込み出産を敬遠するのは、身体的、精神的な負担が大きいからという。山中医師は「赤ちゃんが逆子なのか、どれぐらいの大きさか、どんな感染症をもっているのかも分からない。ふつうなら検診を通して時間をかけて把握すべきことを大急ぎで判断するしかない」と、現場の苦労を語る。
  超音波診断でおおよその赤ちゃんの大きさは把握するが、自然分娩(ぶんべん)ができない場合は、急きょ帝王切開などの手術になることもある。
  病院にとっては経済的なリスクも高い。県立こども医療センターによると、1〜4月に来た飛び込み出産の妊婦8人のうち、出産費用を払ったのはわずか2人しかいなかった。なかには生まれた赤ちゃんをおいていってしまった女性もいたという。
  「出産の予約をとろうと思って何軒も病院に電話をしたが見つからなかった」「妊娠に気づかなかった」「第1子も飛び込みで産んだので」という妊婦もいたという。
  県内の市町村は、出産費用を払うのが経済的に難しい人のために児童福祉法に基づき、「助産制度」を設けている。提携した病院で出産すれば自治体が出産費用を支払ってくれる制度だ。しかし飛び込み出産の場合は支払いの対象にならないことが多い。妊婦が費用を踏み倒せば、そのまま全額が病院の負担になってしまう。
  しかも医師法により費用未払いを理由に診療を断ることはできない。
  以前は不法滞在の外国人や、10代で妊娠したため親に相談できなかったなど、病院に通えない事情のある妊婦が多かったが、最近はほとんどが成人した日本人という。
  こうした状況を受け、県産科婦人科医会も県内八つの基幹病院で飛び込み出産の実態調査に乗り出した。医会副会長で横浜市大付属病院産婦人科教授の平原史樹医師は「どこが飛び込みを診るのか、どこが費用を負担するのか、県にも実態を報告し対応を話し合っていきたい」と話している。

2007年8月26日 asahi.com マイタウン神奈川


神奈川県には「助産制度」があるそうですが、奈良県の場合どうだかわかりません。「助産施設」というものはあるようですが、あまり知られていないのかも知れません。病院では教えてくれますが、病院に行かなければわからない。妊娠した場合に定期的に病院に通っていると月に1万円程度かかったと思いました。この妊婦の場合どうだったかわかりませんが、妊娠によって収入の途を失うことが多く、この先なんぼでも金がかかる妊婦にとってこの金額は少ないもんでもありませんから、火急に必要が生じた場合でなければ病院に行かない人がいても不思議ではありません。そこで出産に関わる費用について公的扶助がある場合は、そのことについて病院とは別のチャンネルでも情報が提供される必要があるでしょう。

ところで横浜市大センター病院では「飛び込み出産」が「月に数件のペース」で発生しているそうですが、去年は年に16件だったようです。本当は月に1.3件です。これを多いと見るか少ないと見るかは問題ですが、1.3件を「数件」と表現するものなのかどうかは大いに疑問です。僕の感覚だと「数件」は5件プラスマイナス2件という感じなのですが、頭の良いお医者さんは違うのかも知れません。県立こども医療センターでは7月現在で11件ですから月に1.6件くらいあります。もっともそのうち1月から4月までに8件あったそうですから、この期間では月に2件です。お医者さんの考え方では「数件」とは少なくとも1件以上、2件あれば十分なようです。

記事によればこの施設で1月から4月の間に6件、月に1.5件の「踏み倒し」が発生しています。もっとも7月までの「飛び込み出産」は11件ですから、5月から7月までの3ヶ月に発生した3件の「飛び込み出産」のうち「踏み倒し」が何件あったかはわかりませんが、この「踏み倒し」率を年間に伸ばすと年に18件になります。この程度のロスがこの施設の収益構造にどの程度の影響を与えているのかは不明です。県内には8軒の基幹病院があり、その全てで同じように「踏み倒し」が発生しているとすると、神奈川県内では年間144件の「踏み倒し」が発生してることになるでしょう。ちなみに2000年の神奈川県における出生数は82906件であり、昨年もだいだい83000件程度であったと仮定した場合、「踏み倒し」は0.17%に上りますが、これは増加傾向にあることから実態調査が開始されたということです。

したがって「踏み倒し」をする人がどういう事情で「踏み倒し」をするのかということについてはまだ何も判っていません。ちなみに「飛び込み出産」の場合に「出産の予約をとろうと思って何軒も病院に電話をしたが見つからなかった」というのは実際にあることのようです。中には他の妊婦の流産を期待した「予約待ち」もあるそうです。

この辺の事情は、上記の記事を引用した次の記事でもわかります。

なぜ産科医は患者を断るのか 出産費用踏み倒しに「置き去り」

妊娠しても産婦人科に行かず、陣痛が来て救急車で病院に運ばれる。これを産科医の間では「飛び込み出産」といい、こうした例が増えているらしい。ただ、妊婦の状態などの情報が全くないため「責任が取れない」と、受け入れを断る産科医も多い。さらに、「飛び込み出産」の場合、出産費用を踏み倒したり、赤ちゃんを病院に置き去りにする可能性が高いというのだ。そうした中、奈良県で、かかりつけの産科医がいない妊婦 (38)が救急車で運ばれ、受け入れる病院がなく、死産するという「事件」が起こった。

定期健診、かかりつけの産科医なし?
奈良県の「事件」は、橿原市に住む妊娠7ヶ月の女性が2007年8月29日午前2時45分頃、スーパーで買物中に体調を崩し救急車で搬送された。救急隊は12の病院に延べ16回受け入れを要請したものの「他の分娩で手が離せない」「責任を持てる状況ではない」などの理由で断られた。女性は午前5時頃に死産した、というもの。「なぜこんなにも受け入れ拒否をするのか」と、メディアは拒否した病院や、国内の産科医不足、セーフティーネットの脆弱さを非難した。
奈良市にある「高の原中央病院」の齊藤守重理事長は、この女性が妊娠7ヵ月ということを知り「あれ?」と思ったという。当然、定期健診を受けねばならないし、分娩の予約は妊娠4ヶ月でも遅いほう。それなのにかかりつけの産科医すらいないというからだ。そして、
「全国的に産科医が不足していて、いま分娩を担当している先生方は、予約のある救急患者を24時間ぶっ通しで診療しているようなもの。そこへ何の情報もない妊婦が運ばれてきたら、もうパニックですよ」
と、緊急で妊婦を受け入れるのは難しい状況だと話す。

妊婦8人のうち出産費用を払ったのはわずか2人
朝日新聞の07年8月26日の記事(神奈川県版)によれば、妊娠してから一度も検診を受けず、陣痛が来てはじめて救急車を呼ぶ「飛び込み出産」が増えているとし、
「赤ちゃんが逆子なのか、どれぐらいの大きさか、どんな感染症を持っているのかもわからない」
という医師のコメントを紹介。これでは責任が持てない、と診療を断る病院が多いと書いている。また、これとは異なる病院側のリスクとして、神奈川県立子供医療センターの例を挙げている。
「1〜4月に来た飛び込み出産の妊婦8人のうち、出産費用を払ったのはわずか2人しかいなかった。なかには生まれた赤ちゃんをおいていってしまった女性もいたという」
これまで「飛び込み出産」は不法滞在の外国人や、10代で妊娠したために親に相談できなかったなどの事情がある妊婦だったが、最近はほとんどが日本人なのだそうだ。こんなことが続くのなら、ますます受け入れ拒否の病院が増えていく。奈良の妊婦死産「事件」の背景と、こうした実態は無関係とは言えないだろう。

2007年8月31日 J-CASTニュース


奈良でも「あれ?」とは思ったものの、よく考えると「いま分娩を担当している先生方は、予約のある救急患者を24時間ぶっ通しで診療しているようなもの」ということで、予約は一杯みたいですから、かかりつけの医師がいないという状況もあり得ることです。したがってかかりつけの医師を中心とした搬送システムは救急搬送としてどうかということになります。かかりつけの医師がいる妊婦は、正常分娩の多くの場合救急車を利用しません。逆に救急車を利用する場合はかかりつけの医師を持たない妊婦である場合が多いと考えることが出来ます。

ところがこの記事の見出しは「踏み倒し」と「置き去り」を問題にしていますので、病院の予約が一杯なのは救急車が搬送先に困る主な理由ではないと考えられています。この記事によれば、病院は「踏み倒し」と「置き去り」による「経済的なリスク」を回避するためにこの妊婦の受け入れを渋ったとされているのです。引用元の記事では「助産制度」について言及し、「実態調査」の目的として「どこが飛び込みを診るのか、どこが費用を負担するのか、県にも実態を報告し対応を話し合っていきたい」という平原医師の言葉を紹介しています。これらは産婦が実際に経済状態によって支払いが出来ない事態を視野に入れて費用負担責任の所在について問うているところですが、J-CASTではここのところを省くことによって、費用負担責任を産婦のみに帰しています。この記事を20文字で要約すると「踏み倒す奴がいるからこういう事になるのだ」。

確かに代金を払わないのは困ったことですが、出産についてお金のかからないところもありますから、払わないでいいんじゃないかと思う人がいないともかぎりません。たとえばフランスやドイツ、ノルウェーはおおろかイギリスでも、出産費用の自己負担はゼロです。各国とも医療保険制度や税制のしくみが異なりますから一概には言えませんが、日本では健康保険から出産育児一時金が支給され、これはほぼ出産そのものの費用には充てられますが、定期検診の分はカバーできません。健保未加入者は当然全額自己負担であり、その金額は平均的な月収の1.5倍程度になります。

ついこの間は給食費や保育料について、経済的余裕があるのに支払いを怠る例を前景化する事によって経済的困窮者の存在にマスキングすることに成功していましたが、この記事はやはり同様に個人のモラルの問題にすり替える事によって医療制度の崩壊を隠蔽しようとしているようにも見えます。もっとも実際にはこの記事を書いた人はぼんやりと26日の記事を見て、いい加減な思いつきで書き飛ばしたものでしょう。実際には「踏み倒し」を理由に診療を拒否する事は出来ないし、病院が口実を設けて「踏み倒し」のおそれのある「飛び込み出産」の受け入れを断るのではないか、というのはこの記事を書いた人の邪推でしかないのです。この人は思わず人格の低劣を露呈してしまいましたのでみんなドン引きですが、僕だって人格では負けてはいませんから予約待ちになったら病院の表で張り込もうと思っていますから妊婦のみんなは要注意だ。しかしちょっと待て、それは誰の子だ? そういう人格ですよ。
posted by 珍風 at 00:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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