2007年10月13日

きちがいの住む街

建築家で政治家で美女の夫である黒川紀章さんが亡くなりましたけど、この人は昔、房総半島をぶった切って運河を造るんだとか言ってまして、こういうのを世間では「破天荒」とか「ケタ違い」とか言うようですが、なんだか酒席の戯言がそのまま真面目なプロジェクトになってしまうような気軽さがたまりません。なにしろ若尾文子を口説くのに「君はバロックだ」なんて、よく考えたら殴られても文句を言えないようなことを言ったようですから危なっかしい人です。もっともこれを受け入れた若尾さんも教養がなかったのか精神がバロック的に流動的にして重層的かつ多義的、要するにヒネクレていたのかなんだか判りませんが。一方その頃、建築界はもうひとりの奇才によって大きく揺らいでいたのでした。

「楳図御殿」東京地裁は“OK”

 漫画家の楳図かずおさん(71)が東京都武蔵野市内に新築中の自宅をめぐり、赤白のしま模様などの外観が住宅地の景観を破壊するとして、周辺住民が工事差し止めを求めた仮処分について、東京地裁は12日、住民側の申し立てを却下する決定をした。
 森淳子裁判官は「この地域にある建物の色はさまざまで、特別な景観があるとはいえない」と判断。「景観の利益が侵害される」とする住民らの主張を退けた。
 楳図さんは「決定は大変うれしい。住民の方も納得していることと思う。(外壁の)色とボーダー(しま模様)に関して法的に理解を得たことは、全国の同じ立場の方にも勇気を与えた」とコメントした。
 一方、住民側弁護士によると、住民は「心身ともに疲れており、今は、正式な裁判などで争うことを考えられない。楳図さんは世界中が反対しても建てるんでしょうね」と話しているという。

2007年10月13日 スポーツニッポン

「奇っ怪」楳図かずお邸建築OK…東京地裁が差し止め認めず

 「まことちゃん」などの作品で知られる漫画家、楳図かずおさん(71)=顔写真=が東京・吉祥寺に建設中の自宅をめぐり、近隣住民が「周囲の景観を無視した奇っ怪な建造物だ」として工事差し止めを求めた仮処分申請について、東京地裁は12日、申し立てを却下する決定をした。森淳子裁判官は決定理由で「景観利益の違法な侵害に当たるとは認められない」などとする判断を示した。
 申立書によると、楳図さん宅の敷地は約235平方メートルで今年3月着工。外壁をトレードマークの赤白のしま模様(60センチ幅)にする計画で、壁面以外は完成している。
 閑静な住宅街にあり、住民は「周囲の調和を無視した極彩色の不快な建物を眺めて暮らさざるを得ないのは苦痛」と主張。計4回開かれた審尋でしま模様の壁面の数を減らすよう求めていた。
 楳図さんは今回の決定を受け「大変うれしい。住民の方も納得していることと思う。(外壁の)色とボーダー(しま模様)に関して法的に理解を得たことは、全国の同じ立場の方にも勇気を与えた」などとコメントした。施工者の住友林業は工事を全面再開し、年内に完成させる予定。

2007年10月13日 サンケイスポーツ

楳図氏の新居、差し止め申し立て却下 東京地裁

 「まことちゃん」などの作品で知られる漫画家の楳図かずおさん(71)が東京・吉祥寺に外壁を赤と白で塗り分けた新居を建築していることをめぐり、東京地裁は12日、「街の景観を破壊する」と主張して楳図さんと施工業者を相手に建築差し止めの仮処分を求めた近隣住民2人の申し立てを却下する決定を出した。
 住民側によると、計画では外壁を60センチ幅の赤白の横しま模様に塗り分ける予定。今月初めの段階では建物はほぼ完成し、塗装したパネルを取り付ける状態だったという。
 住民側は「不快と感じる色彩をいや応なしに継続的に見せられることは苦痛だ。価値観の押しつけは環境型ハラスメントとして違法だ」と主張。これに対し、楳図さん側は「赤白の塗り分けは自己表現であり表現の自由がある」として住民側との交渉には応じない意向を示していた。

2007年10月12日 asahi.com


いや、べつに揺らぎゃしませんが。もっとも充分に「大きく揺らぐ」ならば建築なんてものは偽装の有無に関わらず崩壊することになっていますから、揺らがないことは全ての建築にとって大変良いことには違いありません。もっとも日本人はプレートの危険な端っこにいながらでっかい火山を眺めて「美しい」などと言っていられるほど暢気だし、次の瞬間には崩壊する家屋のために一生を棒に振って平気でいるくらい将来の考えのない人たちなのですから別にどうでもいいようなものじゃないかと思うんですが、世の中には近所に赤白ボーダーの家が建つと「苦痛」を感じるという人もいるらしいんですね。「星条旗」や「日の丸」を連想させる配色に「苦痛」を感じる気持ちはわからないでもないですが、一方で「紅白」は大晦日の歌合戦のみならず源平の合戦もそうですし、何かおめでたいおりには紅白幕を張るという、きわめて忌まわしい習慣も存在します。もっともあれは縦ストライプですけど、縦のものが横になると「苦痛」だというのはエレファントマン以来の奇癖というべきでしょう。

まあしかし、「景観」というもの自体、主観の塊みたいなもんでして、如何様にも文句がつけられます。たとえば「美しい景観を創る会」というのがありまして、「悪い景観70選」というものを発表しています。http://www.utsukushii-keikan.net/10_worst70/worst.html

これはこいつらの考えですからべつに良いのですが、どれもこれも別に悪くなかったり、どうでもよかったり、「景観」の善し悪しの問題ではないのではないかという事例ばかりです。しかしながらこういうのを「悪い景観」として挙げることも可能なわけです。一方京都では個人の住宅やアパートでも「和風」にしないといけないらしいのですが、「和風」がムカつく、という人もいないとも限りません。「不快」は各人の価値観だけでなく、個人的な思い出やら何やらとも結びつきますから、誰が何を「不快」で「苦痛」だと言い張っても不思議ではありません。楳図さんが「住民」との交渉に応じないというのももっともで、こういう問題にはあまり「交渉」の余地はありません。住民側は「価値観の押しつけは環境型ハラスメント」であるとしていますが、むしろこれは京都の事例のような公権力による規制とか、「創る会」への批判には有効な議論でしょう。

しかしながら戸建て住宅が多い地域では、こういう問題は頻繁に存在するようです。そういう場所では赤白御殿はおろか普通のアパートでもゴミ処理場でも葬祭場でもショッピングセンターでも何でもほとんどありとあらゆるものを排斥しようとしています。特に東京近郊の古い住宅地では集合住宅の需要が高いので、余所者の侵入を嫌う住民との軋轢が絶えません。そういう場合に引き合いに出されるのが「景観」でして、これがまた一定の効果があるらしいのは今回の判決からも伺われます。東京地裁の森淳子裁判官はこの吉祥寺南町について「特別な景観があるとはいえない」として工事差し止めの仮処分の申請を却下したんですが、裏を返せば「価値観の押しつけ」をして統一的景観を作り上げるならばこの申請は認められるということになるわけです。

都心に近い便利なところに住んでいるのに、戸建てが買えない人は来るな、余所者は来るなという田舎者みたいな人もいるわけですが、もっとも、「価値観」はともかく「出費」の押し付けには耐えられない人も多いでしょう。「景観」のために家の立て替えは無理ですし、それどころか住宅や庭木というものは手入れをしていないと「景観」以前の問題と化しますが、リフォームのお金がない人は沢山いそうです。それでも戸建てに住んでる人は恵まれた方で、アパートに入ることも出来ないような人が大勢いるんですから、「景観」なんぞよりはそういう人たちのことを考える方が先じゃないかという気もします。ところが今度出来た京都の条例に従うと外装だけでも100万円ほど余計にかかるんだそうで、これはアパートなんかにも適用されるんですからビンボー人は出て行けというに等しい。出ちゃったって行くとこのない人は、逆にこれも「景観」の問題として捉え、都市の「景観」を破壊する要素が公園にテントを張ったりウロウロとゴミなんぞあさっているのはよろしくないとして追い出し、取っ捕まえてどっかに収容するのが今日の「景観」政策の主流であります。

とはいうものの大自然の驚異は人知を超えてますから、「景観」だろうが「里山」だろうが、富士山でも噴火すれば元の木阿弥であります。富士山はともかくとして巨大地震はいつの日か必ず来るそうですから、板子一枚下はマグマと心得て気をつけるにこしたことはありません。関東大地震の直後にはバラックが乱立し、マヴォの人たちが「バラック装飾社」と称していきなりペンキ缶をかかえてやってきては塗らせて下さいといって過激極まる塗装を施したそうですが、当時の人々には結構好評だったようです。やはり大地震によって少しは覚醒した模様です。赤白ボーダーの楳図邸には、そうしたバラックの趣があるのかも知れません。そんな「奇怪」な屋敷や「マヴォ理髪店」や「住吉屋百貨店」、「林屋食堂」とか「あぐり美容室」、ついでに「東洋キネマ」なんかが雑然と立ち並ぶ東京の「景観」も悪いもんじゃないですよ。ど真ん中に400メートルにもなる「第3インターナショナル記念塔」を建てたら危険でしょうな。
posted by 珍風 at 18:51| Comment(0) | TrackBack(1) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック


Excerpt: 住友林業略称 =住林 |郵便番号 =〒100-8270 |本社所在地 =東京都千代田区丸の内一丁目8番1号 |電話番号 = 03-6730-3500|設立 =1947年2月20日 |業種 = :Cat..
Weblog: マイホームのススメ
Tracked: 2008-01-22 10:55
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。