2008年03月06日

嘘でもいいから殺人放火事件

そんなうちのカミさんが推奨する事件が、これだ。3・2・1。

殺人、放火で無罪判決=同房者への告白「任意性に疑い」−福岡地裁支部

 北九州市で2004年、全焼した民家から男性の遺体が見つかった事件で、殺人や非現住建造物等放火などの罪に問われた実妹の無職片岸みつ子被告(60)の判決公判が5日、福岡地裁小倉支部で開かれた。田口直樹裁判長は殺人、放火について、「証拠に種々の疑問がある」と述べ無罪とした上で、窃盗などの罪で懲役1年6月、執行猶予3年(求刑は4罪合わせて懲役18年)を言い渡した。
 片岸被告は全面否認を続け、無罪を主張。公判では、同被告が警察署に拘置された際、同房の女性(25)に兄殺害を打ち明けたとされる告白の信用性が争点になった。
 判決で田口裁判長は告白について「任意性に疑いがあり、証拠能力を認めることができない。被告の発言内容は、雑談としてその場の思い付きで虚構も織り交ぜながらなされた疑いがある」と述べた上で、捜査手法についても「相当性を欠いていた」と断じた

2008年3月5日 時事


この事例で分りやすいところは、検察側が用意した証拠が、ほとんど一つしかないというところです。その一つというのがこの「告白」なんですが。何とも心もとない裁判であって、よちよち歩きの幼児が屋根の上を歩いているのを見るような気がしますが、したがいまして裁判は、殺人及び放火に関しては専らこの「告白」をめぐってのみ行なわれることになります。

詳報 無罪判決の要旨 福岡地裁小倉支部

 片岸みつ子被告に対する5日の福岡地裁小倉支部判決要旨は次の通り。

 【主文】

 殺人と放火罪は無罪。威力業務妨害と窃盗罪については懲役1年6月、執行猶予3年。

 【犯罪事実】

 片岸被告は叔父と共謀し2002年3月31日、兄古賀俊一さんの妻が経営する学習塾の出入り口2カ所に壁を作り、教室や便所への出入りをできなくした(威力業務妨害)。古賀さんの死亡後、生前預かった貯金通帳を使って04年3月25日、現金500万円を引き出した(窃盗)。

 【告白の証拠能力】

 警察の留置場で同房だった女性が証言した被告の犯行告白には、証拠能力が認められない。捜査手法には次のような問題点が指摘できる。

 (1)捜査機関は同房者を通じて捜査情報を得る目的で、意図的に被告と同房状態にしたということができ、代用監獄への身柄拘束を捜査に利用したとのそしりを免れない。

 (2)同房者は、捜査官に伝えることを隠して被告から話を聞き出しており、被告は知らない間に同房者を介して取り調べを受けさせられていたのと同様の状態にあったということができ、本来取り調べと区別されるべき房内での身柄拘置が犯罪捜査のために乱用された。

 (3)房内では、取調室と異なり、将来有罪の証拠になることを想定して、自己に有利不利を考えて話す状況になく、供述拒否権への配慮が不足している。

 (4)同房者は事情聴取能力のある捜査官ではなく、捜査機関に処分を委ねている身であるから、無意識に捜査機関に迎合するおそれがあり、同房者を介して聴取する内容には虚偽が入り込む危険性がある。

 同房者からの参考聴取は許されるが、本件における事情聴取は単なる参考聴取の域を超え、虚偽供述を誘発しかねない不当な方法であり、犯行告白が任意になされたものとはいえない。身柄拘置を犯罪捜査に乱用するもので捜査手法の相当性を欠き、適正手続き確保のためにも証拠能力を肯定することはできない。

 【告白の信用性】

 犯行告白の根幹部分は被告が同房者に話したものと認めることができる。しかし告白に、被告を犯人であると合理的疑いなく認定するほどの信用性は認めがたい。

 検察官は、告白後に被害者の首に外傷があることが明らかになったという秘密の暴露があり、被告の告白には高い信用性があると主張する。しかし解剖鑑定から生前の傷と認めるには合理的な疑いが残る。被害者の首に生前の傷があると認定することはできず、告白に秘密の暴露があるとはいえない。

 【結論】

 告白に、被告を犯人と認めるほどの信用性は認められず、それ以外の検察官が主張する状況事実を総合しても、被告を犯人と認定するには足らない。結局、被告が犯人とするだけの確たる心証を形成するには至らなかった。

2008年3月5日 中国新聞


威力業務妨害と窃盗については有罪となっていますから、状況としては殺人や放火もやったんじゃないかという心証を持つ人もいるかもしれません。まず、威力業務妨害は事件発生の2年前のことで、兄の妻が経営する学習塾の自宅の土地に面した出入り口を封鎖して学習塾に出入りする者が自分の土地に立ち入ることが出来ないようにしたことであり、窃盗罪というのは被害者を介護していた被告人が生前に本人から直接預かっていた通帳と印鑑を使用して、事件後に葬式代として500万円を引き出したものです。

「兄の妻」と「妹」の「不和」なんてのはよくあることで、我が家もそうでけど、だからといって僕が殺される理由はありません。カミさんと妹で勝手に殺し合えばいいのです。検察側としてはこの「威力業務妨害」をもって被告人と被害者との間に不和が存在するかのような印象を与え、「窃盗」をもって犯行の直接の動機とすることによって「殺人」と「放火」の「心証」を与えようとしたものと思われますが、いかにも物事をよく考えない人の思いつきそうなことで、単なる思いこみでしかありません。しかし、こう言ってはナンですが頭の悪い人の常として、他の人も自分と同じように思うことを当然だと思ってしまいます。で、起訴しちゃうと。

物的証拠もなく自白調書もないのに、これに「告白」があれば盤石で鉄壁だと思っちゃったところが情けない。警察では被告人を署内の留置場に閉じ込めて日夜苦しめていたものの逮捕後3ヶ月近く経っても自白も取れず、かといって愚か者のアタマにこびり付いた思いこみは脳髄に深く根を下ろしていますので、別の奴が犯人じゃないか、などという画期的なアイデアも出ないので困っていたところ、6月18日になって救いの女神が現れたのでした。「現れた」てゆうかなんちゅうか、まあ、アレだ。

それがこのいわゆる「乳房の女性」じゃなかった「同房の女性」でありまして、この人は覚醒剤使用などで少年院入所2回、いまだに覚醒剤を使用する癖が抜けず窃盗を繰り返し、知人間では嘘つきで有名という、いわば警察のおなじみさん、マスコット、アイドル、オナペット、しかも窃盗で捕まって来たけど余罪8件という、弱みのカタマリみないなおねいさんだったようです(「スパモニ」による)。こういう人は「泳がせて」おいて情報収集を行なう、というのが警察の常套手段だと言われていますが、泳いでいるうちに9件も罪を重ねて来たものと思われます。今回の逮捕も、いわば「泳ぎ」みたいなもんで、普段海で泳いでるのをプールに入れたようなものでしょう。この女性は結局「逮捕」した事件1件についてだけ立件され、しかも執行猶予付きの判決を得て現在では元気に水泳を楽しんでおられるそうです。

この調子のいいおねいさんは他所が空いてるのに、しかも2人定員の房にもう2人入っているのに、被告人の房に無理矢理ねじ込まれます。そしてその翌日にはさっそく「昨日聞きました」と報告しています。素晴らしい働きぶりであるといっていいでしょう。とても逮捕された犯罪者とは思えない使命感であります。1晩たりとも無駄にしない機敏さこそスパイの鑑であるといえましょう。警察には「「すぐやる人」になれば仕事はぜんぶうまくいく」とかそういう本が常備必須であります。

このすばっしっこいおねいさんは24日まで被告人と同房で過ごし、7月15日にはまた頼まれて、じゃなっかった覚醒剤かなにかで再逮捕されて9月27日まで再び警察署内の留置場で被告人と同房となり、ここでは2人だけの時間を過ごします。その間この女性自身に関する取調べは4日だけ。ほとんどの時間が被告人の「告白」に関する聴取であり、要するに赤の他人の事件のことで不当に身柄を拘束され続けたわけですが、物の分かったおねいさんはそんな無粋なことは言わないようです。そのかわり「告白」の「メモ」を取ったり「心理テスト遊び」をして被告人に「殺害したことを認めます」と書かせたり、その手腕を遺憾なく発揮したのでした。

中でも白眉とされるのが「秘密の暴露」で、おねいさんは「首も刺した」というまたとない「お土産」を持って行きます。ところがこれについては「解剖鑑定から生前の傷と認めるには合理的な疑いが残る。被害者の首に生前の傷があると認定することはできず、告白に秘密の暴露があるとはいえない」と、あっさり蹴られてしまいました。むしろ「告白後」に傷をつけられたんじゃないかという不合理な疑いが残ってしまいました。てゆうか焼けてる死体の外傷が生前のものかそうでないか分んねえだろうとでも思ったんでしょうかね。呆れてものも言えません。

またこういう際に重要な「凶器」についての「告白」も、最初は「果物ナイフ」だったものが次には「出刃包丁」、その次に普通の「包丁」、そうかと思ったら「アーミーナイフ」、結局最後には「サバイバルナイフ」に落ち着くという四谷学院も真っ青の5段階個別指導ぶり。これって50代女性の身近にあるもの、思いつく物から、だんだん婆さんには縁遠いものになっていくんですが、注射器には詳しくても刃物にあまり詳しくないおねいさんが死体の鑑定結果に合わせるためにだいぶ苦労した様子が伺われます。これを含めたおねいさんと警察とのやり取りなど、いくらでも面白く出来そうですから演劇関係の方はいかがでしょうか。「蜘蛛女のキス」みたくミュージカルにするのもいいでしょう。「(眼の下に)クマ女の(首の)キズ」とか。

映画化するもの良いのですが、女囚映画の決まりとしてレズシーンが必要ですから被告人役の設定を変更する必要があるのは、まあいいとして、あまり出来が良いと外国の人も観たがります。それはいいのですが、その際に日本が世界に誇る「代用監獄制度」について説明しないといけないのがちと面倒です。日本の警察がいかに優秀であるか、どのようにして真犯人を取り逃がして別人を「犯人」に仕立て上げて事件を見事解決に導くかということについて観客の理解が必要です。1日24時間にわたる際限のない取調べ、警察官達の決然たる実行力と沈着冷静とはおよそいいがたいアンポンタンぶり、札付きの虚言癖のある人を連れて来て「ウソでもいいから」何らかの「証拠」を調達してくるボンクラ加減、死体にこっそりキズを付ける大胆な手口など、県警の花田捜査一課長がおっしゃるとおり無実の者を罪に陥れるために無知と野蛮と残酷の「最善を尽くした」様子を活写することによって、外国の犯罪者諸君がむやみに元気づいてしまう、などと心配するには及びません。少なくとも「セップク」が三島由紀夫だけの話であり、「サムライ」が藤岡弘、1人しかいないことを知っている教養ある外国人はとても実話だとは思わないでしょう。近頃じゃ「右翼活動家」だって拳銃で自分のこめかみを撃つんです。


posted by 珍風 at 22:44| Comment(1) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「首のキズ」ってのは、「告白」の時点で死体の全部が存在したわけではなくて、損傷があった頸動脈を保存してたのね。この損傷については血管の内側からのもので、火炎による熱で血液中の水分が気化して膨張したことによる破裂。そもそも始めからこの損傷は認識されていたんで、「新事実」でもなんでもないわけだ。だからお巡りさんがこっそりと死体に忍び寄って首を切っちゃったわけじゃない。それから、死体の気管には煤が入っていて、これは火事の当時生存していたことを示すから、「殺してから火をつけた」という「告白」が間違いであることは明らか。犯行の様態は「告白」が示すものとは全く異なる。同じみんなを騙すならもうちょっと上手くやれないもんか。
Posted by 珍風 at 2008年03月07日 04:55
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