2008年03月10日

みんなで映画を観にいこう

そういえば「ゆきゆきて神軍」(1987)なんてのもありましたが、「A」(1998)あたりから、「ボウリング・フォー・コロンバイン」(2003)、「華氏911」(2004)といったマイケル・ムーア作品のヒットを経て、同年の「スーパーサイズ・ミー」(2004)なんてものありまして、ドキュメンタリー映画が何故か好調なんだそうで。最近では「不都合な真実」(2006)とか「いのちの食べかた」(2007)が話題になりましたな。僕は先日草間彌生のを観て来たけど、その次はヘンリー・ダーガーだってんだからどちらも尋常ではない。いずれにしてもドキュメンタリー映画の面白さが見直されているということで、大変結構なことではあります。

それで国会議員の中にも「ドキュメンタリー映画ファン」がいるらしいんですが、この人が抜け駆けをして自分にだけ先に見せろと言いだしたらしい。

靖国映画「事前試写を」 自民議員が要求、全議員対象に

 靖国神社を題材にしたドキュメンタリー映画の国会議員向け試写会が、12日に開かれる。この映画は4月公開予定だが、内容を「反日的」と聞いた一部の自民党議員が、文化庁を通じて試写を求めた。配給会社側は「特定議員のみを対象にした不自然な試写には応じられない」として、全国会議員を対象とした異例の試写会を開くことを決めた。映画に政府出資の基金から助成金が出ていることが週刊誌報道などで問題視されており、試写を求めた議員は「一種の国政調査権で、上映を制限するつもりはない」と話している。
 映画は、89年から日本に在住する中国人監督、李纓(リ・イン)さんの「靖国 YASUKUNI」。4月12日から都内4館と大阪1館でのロードショー公開が決まっている。
 李監督の事務所と配給・宣伝会社の「アルゴ・ピクチャーズ」(東京)によると、先月12日、文化庁から「ある議員が内容を問題視している。事前に見られないか」と問い合わせがあった。マスコミ向け試写会の日程を伝えたが、議員側の都合がつかないとして、同庁からは「試写会場を手配するのでDVDかフィルムを貸して欲しい。貸し出し代も払う」と持ちかけられたという。
 同社が議員名を問うと、同庁は22日、自民党の稲田朋美衆院議員と、同議員が会長を務める同党若手議員の勉強会「伝統と創造の会」(41人)の要請、と説明したという。同庁の清水明・芸術文化課長は「公開前の作品を無理やり見せろとは言えないので、要請を仲介、お手伝いした」といい、一方で「こうした要請を受けたことは過去にない」とも話す。
 朝日新聞の取材に稲田議員は、「客観性が問題となっている。議員として見るのは、一つの国政調査権」と話す。同じく同党議員でつくる「平和靖国議連」と合同で試写会を開き、試写後に同庁職員と意見交換する予定だったという。
 「靖国」は、李監督が97年から撮影を開始。一般の戦没遺族のほか、軍服を着て自らの歴史観を絶叫する若者や星条旗を掲げて小泉元首相の参拝を支持する米国人など、終戦記念日の境内の様々な光景をナレーションなしで映し続ける。先月のベルリン国際映画祭などにも正式招待された。アルゴの宣伝担当者は「イデオロギーや政治色はない」と話すが、南京事件の写真で一部で論争になっているものも登場することなどから、マスコミ向けの試写を見た神社新報や週刊誌が昨年12月以降、「客観性を欠く」「反日映画」と報道。文化庁が指導する独立行政法人が管理する芸術文化振興基金から06年度に助成金750万円が出ていたことも問題視した。同基金は政府出資と民間寄付を原資とし、運用益で文化支援している。
 稲田議員は「表現の自由や上映を制限する意図はまったくない。でも、助成金の支払われ方がおかしいと取り上げられている問題を議員として検証することはできる」。
 アルゴ側は「事実上の検閲だ」と反発していたが、「問題ある作品という風評が独り歩きするよりは、より多くの立場の人に見てもらった方がよい」と判断し、文化庁と相談のうえで全議員に案内を送った。会場は、同庁が稲田議員らのために既におさえていた都内のホールを使う。
 李監督は「『反日』と決めつけるのは狭い反応。賛否を超えた表現をしたつもりで、作品をもとに議論すべきだ」と話す。

2008年3月9日 asahi.com


ズルいよな。僕だって観たいぞ。しかもダタで。「表現の自由や上映を制限する意図はまったくない」んだったら公開されてから観に行けば良いでしょうに。このために特にホールを使用したりして、税金の無駄使いです。仮に万歩譲って「助成金の支払われ方がおかしい」というのが作品の内容における「客観性」の問題になるのだとしても、もう助成金は支出済みですから、公開前に慌てて観る必要はありません。むしろその「客観性」とやらについてじっくりと検証する時間がどう考えても数ヶ月は必要です。

というのもこの「客観性」というのがよくわからないんですけど、一般的に言ってしまえば「客観性を欠く」映像というのは観客にとっては何が映っているのか皆目見当がつかないような相当難解なシロモノになるはずで、例えば「軍服を着て自らの歴史観を絶叫する若者」を撮っているつもりがどうしても売店のソフトクリームの方が気になるのでどうしてもカメラがそっちに振れてしまうとか。逆に関心が極めて狭い範囲に限定されている場合だと、例えば愛児の運動会のヴィデオ。自分の餓鬼ばっかり撮ってて赤組が勝ったのか白組が勝ったのかもわからないという。

およそこういうのが「客観性を欠く」映像なんだと思いますが、ここで仮に「客観性」の条件を、他人が観て何が映っているのか解る、他人が観てそこそこ面白いと思う、ということにしてみますと、ロードショー公開されたりあまつさえベルリンに招待されたりするというのは相当に「客観性」に富んだフィルムなのではないかと思われます。

ちなみに李纓監督自身は「この映画には私の強い主観的なものがあり、私はできるだけそれを抑制した。ドキュメンタリー映画を客観的なものにすることは不可能である。」と言っていますが、「主観的なもの」がどのようなものであるかが他の人に伝わる、例えばある人はそれを「反日」だと思ったわけですが、それが誤解であるかどうかはともかく、とにかく「反日」なら「反日」と受け止めることが出来たということは、その映像が「客観的」だったからなのです。

もっとも稲田さん達の「客観性」というのは、どうも「自分の気に入る」という、より狭い意味で考えているのかもしれません。もちろん観客は稲田さん達だけではないわけで、世の中には色々な人がいますから、そういう全ての人に「気に入る」ようには出来ないものです。多くの映画がこの課題に挑戦し、惨憺たる敗北を喫しています。全ての人に「気に入られる」のは「不可能」なのです。それでも大多数の人には「気に入られ」たいと思うわけですが、それはとりもなおさず「気に入れ」ばお金を払ってくれるからなのです。逆に「国政調査権」とか言ってタダで(税金で)映画を見ようとする稲田さん達に「気に入られ」ようとする理由は全くありません。

ところが稲田さん達は、抜け駆けをしてタダ観をするばかりではなく、どうやらこの映画に何らかの力を行使しようとしているようです。事前検閲を行なう以上は、あわよくば上映差し止めとか内容の「改変」を目指しているのかも知れません。ところが映画というものはNHKの番組とは違って、そう簡単に「改変」などは出来ないのです。何が映っているのか知りませんが、「カット」や「ぼかし」も間に合いません。しかしもしかするとパンフレットの製作に介入出来るかも知れませんし、上映予定館に難癖をつけて営業を停止するとか、火をつけて「丸焼けになった」と軽い口調で話してみんなを笑わせるとか、乱暴な人たちを組織するなどしてどっかの三流ホテルを見習ってもらうとか、色々あるわけですが、稲田さん達は映画そのものではなくて監督をターゲットにした模様です。おそらく「助成金」を問題にしてこの750万円也の返還を求め、李纓監督に経済的打撃を与えることを目指しているものと思われます。

この場合に稲田さん達が想定していると思われるのが「芸術文化振興基金助成金交付の基本方針」における「政治的、宗教的宣伝意図を有するもの」に抵触するというものでしょう。もちろん、「政治的、宗教的」な題材を扱ったからといって直ちに「宣伝意図」を証明するのは困難でしょう。この場合は恐らく不可能です。自己の思想信条の表現は「宣伝」とは言いません。「宣伝」という場合は宣伝する主体が制作者とは別個に存在しており、宣伝主体と制作者との関係の証明が必要になってきますが、まさか中国人だから中国政府の宣伝をしているんだというようないい加減な事では済みません。だいたい中国政府は日本の文化庁から助成金をもらわなければならないほど金に困ってないそうですよ。

もちろん稲田さん達は結果として自分達の言い分が通らなくても平気なのです。なにしろ「百人斬り」名誉毀損訴訟で勝ち目がないとみるや裁判官を侮辱し、結審後に裁判官を忌避したツワモノです。ほとんど勝ち負けは眼中にありません。えらい弁護士もいたものです。集団自決の方も見通しは暗いですが、騒ぎ立てるだけで少なくとも一時は一定の成果を得たかに見えたではないですか。結局はかえって世論を喚起し、ものすごい反発を食らいましたけど。

そういうわけで、稲田さん達は今回も「靖国 YASUKUNI」の良い宣伝役になってくれました。これも文化庁の「助成」の一部かも知れません。しかしながらかなり上映館を拡大しない限り黒字は難しく、DVDの売上げを多くすることを考えなければなりません。実際、多くのDVDソフトが「特典映像」を付けて購買意欲をそそっているところであります。そこで李纓監督としてはこの「試写会」を利用して、稲田さんを始めとした議員諸氏にインタビューをし、それを映画の宣伝素材とするだけでなく、独立したドキュメンタリー作品として製作して「靖国 YASUKUNI」の「特典映像」につけると良いと思います。2枚組になりますけど、5000円くらいなら買わないこともありません。

じゃあ僕だって稲田さんを見習って宣伝しますか。この映画は日本刀に関する映画だそうです。だからサムライやガイジンがカタナを振り回す映画が好きな人は見なくてはなりませぬぞ。それにもし仮に「日本人の魂」がカタナだったら、アメリカ人の魂は「銃」だ。「魂」というのはどうも危なっかしいものみたいだね。そういうわけで全てのアクション映画ファン、戦争映画ファン、切株派のキミも必見の一本、刀剣や銃器などの「魂」のない明るい社会をめざすあなたもぜひとも観ておきたい一本であります。公式サイト
http://www.yasukuni-movie.com/


posted by 珍風 at 21:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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